日銀総裁が語る「テール・リスク」への対応策とは

水瀬ケンイチ

「テール・リスク」とは、発生確率は低いが発生すると巨額の損失となるリスクのことです。

普段、あまり聞くことはない言葉かもしれませんが、割と関連書籍も出ています。
通常、株や債券など伝統的資産のリターンは概ね正規分布するという前提で、投資家はリスク(標準偏差)を計算し、ポートフォリオの最大損失を推定したりします。

しかし、実際にはリーマン・ショックなどの大規模な市場暴落は、その発生確率どおり1000年に一度とかいうレベルではなく、もう少し頻繁に起きていることが観測されています。
実際の市場は、正規分布ではなく、釣鐘型グラフの裾野部分がもっと分厚いベキ分布ではないかという見方があります。
ちなみに、ベキ分布の裾野部分の分厚くなっている部分を「ファット・テール」、その発生リスク(主にマイナス側)を「テール・リスク」と呼んでいるようです。

これらテール・リスクについては、「投資の科学 あなたが知らないマーケットの不思議な振る舞い」(マイケル・J・モーブッシン著)や「ブラック・スワン―不確実性とリスクの本質」(ナシーム・ニコラス・タレブ著)などを読んで存在は知ってはいるのですが、その中に有効な対応策が見出せませんでした。

できることと言えば、標準偏差はあくまで「目安」と考えるとか、最大損失を2標準偏差ではなく3標準偏差も視野に入れてみようとか、債券比率を高めにしてリスク自体を下げておこうとか、生活防衛資金をたっぷり準備しておこうとか、そんな方法しか思いついていませんでした。
(タレブ氏が少しだけ提唱している、9割安全資産で1割ハイリスク投資という「バーベル戦略」は私には不向きなので却下)

そんな中、モーニングスターにその名も「テール・リスクに対する対応策」という記事が出ているではありませんか。
しかも、内容は白川日銀総裁の講演レポートに基づいているというではありませんか。
これは見るしかないでしょう。

モーニングスター アナリストの視点(ファンド)
2011/07/07 テール・リスクに対する対応策

詳しくは、上記レポートをご覧いただきたいのですが、要点だけまとめると、「テール・リスク」が顕在化する前後の対応策は、

・リスク・エクスポージャーの集中回避(リスク資産の集中の回避)
・冷静な行動など

とのこと。
結論としては、テール・リスクへの対応策は「分散投資を冷静に」ということでした。
今のところ、私にとってのテール・リスクへの対応策は、基本的なリスク管理を余裕を持って行なうということなのだろうなと思いました。


--- 以下、長々と蛇足 ---

いや待てよ、「冷静な行動など」の「など」とは何だ?
何か参考になることが他にもあるかもしれない……ということで、原典を当たってみましたら、ありましたよ長文レポートが。

日本銀行 公表資料 2011年
2011年 6月28日 【講演】白川総裁「我々はテール・リスクにどのように対応すべきか」(オランダ外国銀行協会、6月27日)

基本的には、金融機関と公的当局に対する対応策について書かれていました。
でも、モーニングスターの記事が書いているように、個人投資家にも役立つ部分はあるかもしれませんので、一応列挙してみます。

<金融機関の対応策>
・十分な量の自己資本や流動性の保有
・リスク・エクスポージャーの集中回避
・安定的な業務継続体制
・国際的なリスク・シェアリング
・冷静な行動

<公的当局の対応策>
・頑健な決済システム
・金融規制・監督
・適切な金融政策運営
・マクロ・プルーデンスの視点
・最後の貸し手
・適切な情報発信

なるほど。
元々、個人投資家が応用できそうなのは、「リスク・エクスポージャーの集中回避(リスク資産の集中の回避)」と「冷静な行動」くらいだったんですね。

しいて収穫をあげるとするならば、「国際的なリスク・シェアリング」の中で出てきた「CAT Bonds」という商品の存在を知ったことでしょうか。
これは、自然災害のリスクを分散する手段であり、発行が増加傾向にあるそうです。今は機関投資家しか買えないようですが、こういう商品が個人でも買えるようになるといいなと思いました。

余談ですが、今年5月に行なわれたイベント「震災後のお金の救急ナイト」(関連記事)で、当ブログの常連読者でもあるタカちゃんさんが、質疑応答で「自然災害をヘッジするような金融商品はできないのでしょうか?」と質問して、登壇者から「できなくはないと思うが、そんなものを引き受ける金融機関はないのでは?」と流されてしまっていたのを思い出しました。
しっかりあるじゃないですか。「CAT Bonds」、覚えておこうっと。

<追記>2011/07/12
読者のかたからCAT Bondsについて、「この債券により大災害のリスク補てんができるのは発行者であり、投資家は被害が出るだけです」とのご指摘を受けました。投資家が自然災害をヘッジできるわけではないんですね。勉強になります。
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Posted by水瀬ケンイチ