【第1回】 なぜ銀行や証券会社は低コストで楽な投資法を個人投資家に隠すのか!?
水瀬ケンイチ

はじめまして、水瀬ケンイチと申します。
私は某IT企業に勤務する30代の会社員です。仕事のかたわら、零細投資家として「インデックス投資」なる投資法を実践しています。その実践記を6年前から「梅屋敷商店街のランダム・ウォーカー(インデックス投資実践記)」というブログで公開しております。
ありがたいことに、そのブログが皆さまにご好評いただき、昨年12月に「ほったらかし投資術 インデックス運用実践ガイド」(朝日新書)という本を経済評論家の山崎元氏と共著にて上梓する機会に恵まれました。
それが、どういうわけか、バリバリのアクティブ投資家(後述しますので、とりあえず「インデックス投資家と正反対の投資家」だと思ってください)であるダイヤモンド社の編集K氏の目にとまり、こうしてコラムを書くことになりました。
■「勤務中にトイレで株価チェック」。そんな状態で仕事できますか!?
私がこのコラムでいちばんお伝えしたいことは、「投資が仕事でも趣味でもない普通の人が、金融のプロに騙されないで資産作りができる極めて簡単な投資法がある」ということです。
世の中には、本当にいろいろな投資法があります。私も10年前はいろいろな投資法を行なっていました。移動平均線を見たり一目均衡表を見たりしてチャート分析をしてみたり、企業の財務諸表とにらめっこをしながらファンダメンタル分析をしてみたりしていました。うまくいったものもあれば、うまくいかなかったものもあります。
しかし、総じて言えることは、いずれも手間がかかる投資法だったということでした。
そして、私の性格がいけなかったのだと思いますが、株価やチャートやニュースなどを常にチェックしていないと不安を感じるようになってしまいました。たとえ仕事中でも、気になって仕方がありませんでした。自分が投資している銘柄に悪材料が出ると、すかさずトイレに駆け込みケータイで売却……いわゆる「トイレ・トレーダー」の誕生です。
■ウォール街の金融のプロでも市場平均(インデックス)に勝てない!?
これではいけないと思い直し、もう少しゆったり構えられる投資法はないものか、できれば手間がかからない投資法はないものかと、書籍やネットを丹念に調べ上げました。そこで出会ったのが、「ウォール街のランダム・ウォーカー」(バートン・マルキール著)という本でした。そのまえがきには、驚くべきことが書かれていました。
「個人投資家にとっては、個々の株式を売買したり、プロのファンドマネージャーが運用する投資信託に投資するよりも、ただインデックスファンドを買ってじっと待っている方がはるかによい結果を生む」
当初、よくある「トンデモ本」ではないかと警戒しました。しかし、いろいろ調べているうちに、この本は1973年に初版が出版されてから30年、改訂を重ねながら世界中で継続して読み継がれ、「時の洗礼」を受けてきた名著であるということが分かりました。
しかも、この本の主張は、米国の学者による様々な研究により実績が証明されており、プロの間ではよく知られた事実であるということまで分かってきました。

出所:モーニングスター。アクティブファンドとは、モーニングスター分類の「国内大型バリュー」、「国内大型グロース」、「国内大型ブレンド」に属するファンド。
■ほったらかしでOK!普通の人の、普通の人による、普通の人のための投資法
私は、「これだ!」と思いました。当時はまだ、この投資法のことを何と呼ぶかは知りませんでしたが、後になって「インデックス投資」と呼ばれていることを知りました。
さっそくこのインデックス投資を実践してみました。すると、まさに自分にピッタリ合っている投資法でした。(当時、日本で米国と同じことをやろうとすると様々な障壁にぶつかったのですが、それはまた別の機会に)。
ぜんぜん手間がかからないので、仕事中もケータイで株価やニュースをチェックすることもなくなりましたし、なによりも自分の自由時間を取り戻せました。
世の中にはたくさんの投資法がありますが、「手間がかからない」という一点において、おそらくインデックス投資の右に出るものはないと言っても過言ではありません。
だからこそ、私がいろいろな投資法を渡り歩いた末に最後に落ち着いた投資法であるし、投資が仕事でも趣味でもない多くの人たちに向いているのではないかと思っているのです。
なにしろ、このインデックス投資は、基本的には、インデックスファンドを買ってほったらかしておくだけなのですから。
■日本の公的年金の8割はインデックス運用
しかし、インデックス投資は日本ではとてもマイナーで、ほとんど知られていません。
正確に言うと、日本の個人にはほとんど知られていませんが、年金基金や信託銀行、生命保険会社などの機関投資家の間では、スタンダードな投資法として積極的に採用されています。
嘘だと思うなら、試しに日本の公的年金を運用しているGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)のWEBサイトを見てみてください。
「年金積立金は巨額であり市場への影響に配慮する必要があることや、市場平均を上回る収益率を継続的に上げることは容易ではないと考えられることなどから、パッシブ運用を中心とすることとしています」(パッシブ運用=インデックス運用のことです)
とハッキリ書かれています。ちなみに、直近の運用状況(平成22年度第3四半期)によると、GPIFが運用する約116兆円(巨額!)のうち、なんと7~8割がインデックス運用されています。
そうです。実は、間接的にではありますが、あなたも私もみんな既に、「インデックス投資家」だったのです。
■100万円分のアクティブファンドは10年間で8万円のハンデがある!?
「そんなにメジャーな投資法なら、なぜ金融機関は個人投資家に教えてくれないのか?」
そう思われるかたもいらっしゃると思います。当然の疑問だと思います。
私もこの投資法を知った時にはそう思いました。その疑問にお答えするには、もう少しインデックスファンドについて詳しく見てみる必要があります。
一般に、より大きな投資収益(市場平均を上回る投資収益率)を目指して運用される一般的な投資信託は「アクティブファンド」と呼ばれています。それに対して、市場平均に連動することのみを目指して運用されるのが「インデックスファンド」です。
インデックスファンドはアクティブファンドに比べて運用に手間隙がかからないと言われており、その分、運用におけるランニングコスト(信託報酬と呼ばれています)が低く設定されています。
たとえば、日本株式型のアクティブファンドの平均信託報酬は年1.39%(2011年2月末現在、モーニングスターより)となっていますが、TOPIX連動型のインデックスファンドの平均信託報酬は年0.56%(同)と半額以下のコストです。これは保有中は毎年かかるコストです。もし、100万円投資していたとしたら、何もしなくても、10年で8万3000円(1000000×(1.39%-0.56%)×10=83000)もの差が出るということです。
しかも、イニシャルコスト(販売手数料と呼ばれています。通常1~3%程度)にいたっては、インデックスファンドの場合、ネット証券を中心に0のところが多いです。
■金融機関が力をいれて売る商品は個人投資家にとって優しくない商品
金融商品のコストが低いということは、その分私たち投資家側の利益が増えるということです。しかしそれは同時に、運用している金融機関側の利益が減るということでもあります。
金融機関には、そんな薄利な商品よりも利幅がたっぷり取れる商品(投資家側の利益が削られる商品)が山のようにあるのです。しかも、毎年のように手を変え品を変え増えていく傾向にあります。
金融機関の広告や窓口でのおすすめ商品が、それら利幅の厚い商品が中心となるのは自然なことです。
残念ながら、銀行も証券会社もあなたの資産を増やすことよりも、自社の利益を増やすことの方に熱心です。でもそれは、民間企業として当然の行動であり、嘆いていても仕方がありません。
では、どうすればよいか? それは、私たち投資家側が少しだけ賢くなり、店の奥の方にしまわれている低コストな商品を、自分で取りに行くという姿勢を持つことです。
たくさんある金融商品(投資信託だけで3000以上!)の中から、自分でよいものを選ぶなんてできないって?
いいえ、そんなことはありません。実は、私たち普通の個人投資家にとって、本当に必要な商品は数えるほどしかないので、むしろ、選ぶのは簡単だと言えます。その選び方についてはコツがあるのですが……それはまた別のお話。
(次回に続く)
P.S
今までのシリーズ記事一覧はこちらのカテゴリーから→インデックス投資の基礎
※本コラムは、ダイヤモンド・オンラインに2011年7月~10月に掲載された水瀬の連載コラム「金融のプロに騙されない等身大の資産作り」を、ダイヤモンド社の許可を受けて転載したものです。
※言わずもがなですが、投資判断は自己責任でお願いします。
私がこのコラムでいちばんお伝えしたいことは、「投資が仕事でも趣味でもない普通の人が、金融のプロに騙されないで資産作りができる極めて簡単な投資法がある」ということです。
世の中には、本当にいろいろな投資法があります。私も10年前はいろいろな投資法を行なっていました。移動平均線を見たり一目均衡表を見たりしてチャート分析をしてみたり、企業の財務諸表とにらめっこをしながらファンダメンタル分析をしてみたりしていました。うまくいったものもあれば、うまくいかなかったものもあります。
しかし、総じて言えることは、いずれも手間がかかる投資法だったということでした。
そして、私の性格がいけなかったのだと思いますが、株価やチャートやニュースなどを常にチェックしていないと不安を感じるようになってしまいました。たとえ仕事中でも、気になって仕方がありませんでした。自分が投資している銘柄に悪材料が出ると、すかさずトイレに駆け込みケータイで売却……いわゆる「トイレ・トレーダー」の誕生です。
■ウォール街の金融のプロでも市場平均(インデックス)に勝てない!?
これではいけないと思い直し、もう少しゆったり構えられる投資法はないものか、できれば手間がかからない投資法はないものかと、書籍やネットを丹念に調べ上げました。そこで出会ったのが、「ウォール街のランダム・ウォーカー」(バートン・マルキール著)という本でした。そのまえがきには、驚くべきことが書かれていました。
「個人投資家にとっては、個々の株式を売買したり、プロのファンドマネージャーが運用する投資信託に投資するよりも、ただインデックスファンドを買ってじっと待っている方がはるかによい結果を生む」
当初、よくある「トンデモ本」ではないかと警戒しました。しかし、いろいろ調べているうちに、この本は1973年に初版が出版されてから30年、改訂を重ねながら世界中で継続して読み継がれ、「時の洗礼」を受けてきた名著であるということが分かりました。
しかも、この本の主張は、米国の学者による様々な研究により実績が証明されており、プロの間ではよく知られた事実であるということまで分かってきました。

出所:モーニングスター。アクティブファンドとは、モーニングスター分類の「国内大型バリュー」、「国内大型グロース」、「国内大型ブレンド」に属するファンド。
■ほったらかしでOK!普通の人の、普通の人による、普通の人のための投資法
私は、「これだ!」と思いました。当時はまだ、この投資法のことを何と呼ぶかは知りませんでしたが、後になって「インデックス投資」と呼ばれていることを知りました。
さっそくこのインデックス投資を実践してみました。すると、まさに自分にピッタリ合っている投資法でした。(当時、日本で米国と同じことをやろうとすると様々な障壁にぶつかったのですが、それはまた別の機会に)。
ぜんぜん手間がかからないので、仕事中もケータイで株価やニュースをチェックすることもなくなりましたし、なによりも自分の自由時間を取り戻せました。
世の中にはたくさんの投資法がありますが、「手間がかからない」という一点において、おそらくインデックス投資の右に出るものはないと言っても過言ではありません。
だからこそ、私がいろいろな投資法を渡り歩いた末に最後に落ち着いた投資法であるし、投資が仕事でも趣味でもない多くの人たちに向いているのではないかと思っているのです。
なにしろ、このインデックス投資は、基本的には、インデックスファンドを買ってほったらかしておくだけなのですから。
■日本の公的年金の8割はインデックス運用
しかし、インデックス投資は日本ではとてもマイナーで、ほとんど知られていません。
正確に言うと、日本の個人にはほとんど知られていませんが、年金基金や信託銀行、生命保険会社などの機関投資家の間では、スタンダードな投資法として積極的に採用されています。
嘘だと思うなら、試しに日本の公的年金を運用しているGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)のWEBサイトを見てみてください。
「年金積立金は巨額であり市場への影響に配慮する必要があることや、市場平均を上回る収益率を継続的に上げることは容易ではないと考えられることなどから、パッシブ運用を中心とすることとしています」(パッシブ運用=インデックス運用のことです)
とハッキリ書かれています。ちなみに、直近の運用状況(平成22年度第3四半期)によると、GPIFが運用する約116兆円(巨額!)のうち、なんと7~8割がインデックス運用されています。
そうです。実は、間接的にではありますが、あなたも私もみんな既に、「インデックス投資家」だったのです。
■100万円分のアクティブファンドは10年間で8万円のハンデがある!?
「そんなにメジャーな投資法なら、なぜ金融機関は個人投資家に教えてくれないのか?」
そう思われるかたもいらっしゃると思います。当然の疑問だと思います。
私もこの投資法を知った時にはそう思いました。その疑問にお答えするには、もう少しインデックスファンドについて詳しく見てみる必要があります。
一般に、より大きな投資収益(市場平均を上回る投資収益率)を目指して運用される一般的な投資信託は「アクティブファンド」と呼ばれています。それに対して、市場平均に連動することのみを目指して運用されるのが「インデックスファンド」です。
インデックスファンドはアクティブファンドに比べて運用に手間隙がかからないと言われており、その分、運用におけるランニングコスト(信託報酬と呼ばれています)が低く設定されています。
たとえば、日本株式型のアクティブファンドの平均信託報酬は年1.39%(2011年2月末現在、モーニングスターより)となっていますが、TOPIX連動型のインデックスファンドの平均信託報酬は年0.56%(同)と半額以下のコストです。これは保有中は毎年かかるコストです。もし、100万円投資していたとしたら、何もしなくても、10年で8万3000円(1000000×(1.39%-0.56%)×10=83000)もの差が出るということです。
しかも、イニシャルコスト(販売手数料と呼ばれています。通常1~3%程度)にいたっては、インデックスファンドの場合、ネット証券を中心に0のところが多いです。
■金融機関が力をいれて売る商品は個人投資家にとって優しくない商品
金融商品のコストが低いということは、その分私たち投資家側の利益が増えるということです。しかしそれは同時に、運用している金融機関側の利益が減るということでもあります。
金融機関には、そんな薄利な商品よりも利幅がたっぷり取れる商品(投資家側の利益が削られる商品)が山のようにあるのです。しかも、毎年のように手を変え品を変え増えていく傾向にあります。
金融機関の広告や窓口でのおすすめ商品が、それら利幅の厚い商品が中心となるのは自然なことです。
残念ながら、銀行も証券会社もあなたの資産を増やすことよりも、自社の利益を増やすことの方に熱心です。でもそれは、民間企業として当然の行動であり、嘆いていても仕方がありません。
では、どうすればよいか? それは、私たち投資家側が少しだけ賢くなり、店の奥の方にしまわれている低コストな商品を、自分で取りに行くという姿勢を持つことです。
たくさんある金融商品(投資信託だけで3000以上!)の中から、自分でよいものを選ぶなんてできないって?
いいえ、そんなことはありません。実は、私たち普通の個人投資家にとって、本当に必要な商品は数えるほどしかないので、むしろ、選ぶのは簡単だと言えます。その選び方についてはコツがあるのですが……それはまた別のお話。
(次回に続く)
P.S
今までのシリーズ記事一覧はこちらのカテゴリーから→インデックス投資の基礎
※本コラムは、ダイヤモンド・オンラインに2011年7月~10月に掲載された水瀬の連載コラム「金融のプロに騙されない等身大の資産作り」を、ダイヤモンド社の許可を受けて転載したものです。
※言わずもがなですが、投資判断は自己責任でお願いします。
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