【第2回】 金融危機、リストラ、災害、入院…不測の事態にも安心して投資を続ける秘訣とは
水瀬ケンイチ

それでは、私が実践しているインデックス投資法をお伝えしたいと思います、と言いたいところですが、投資を始める前にやっておきたいことがあります。
■インデックス投資を始める前に、最低限把握しなくちゃいけないこと
まずは、家計の状態を把握することです。
「ええ~つまらない!」と思われるかもしれません。しかし、毎月の生活費が収入を越えているような状態は、いわば底に穴が開いているバケツのようなものであり、どんなに効率よく水を足しても(効率的な投資をしても)水はたまりません(資産は増えません)。
毎日家計簿をキッチリつけろなどと言うつもりはありません。ざっくりとした1ヵ月の生活費を把握することです。
私もやった簡単な方法は、ある月に銀行口座に給料(収入)が入ってから、ちょうど1ヵ月後にそれがいくら残っているかを見る方法です。冠婚葬祭などの突発的イベントもあるので、2~3ヵ月見ておけば、だいたいの生活費が把握できると思います。そして、給料(収入)の残高がプラスになっていればまずはよしとしましょう。
もし、マイナスならば、それは投資などしている場合ではありません。そのままの生活を続けていると、いずれ家計が破綻しかねません。
なるべく早く生活を見直すことが大切になろうかと思います。生活費の見直しは、金額が大きな部分から、不動産→保険→車→水道光熱費→…といった順番に行なうのがよいのですが、節約は本コラムの趣旨ではないので、そこは節約のプロにお任せしたいと思います。
次に、「生活防衛資金」を貯めることです。
「なんだよ、まだ投資に入らないのかよ!」と思われるかもしれません。しかし、この生活防衛資金は、投資を始める前に必ず必要なお金であると考えます。
■何が起きても自分と家族を守るお金、「生活防衛資金」っていったい何のこと!?
私はインデックス投資家として、今までいろいろなマネー誌の取材をお受けする機会に恵まれましたが、その全てで編集さんに無理を言って、インデックス投資の話とは別に、生活防衛資金の必要性を盛り込んでいただくようお願いしてきました。
生活防衛資金とは、ひと言で言うと、何が起きても(リストラ・長期入院・災害など)自分と家族の生活をしっかり守るためのお金です。目安としては、「生活費の2年分」を、銀行預金など流動性の高い金融商品で確保することが望ましいと考えています。
これは、10年前に読んだ本「投資戦略の発想法―ゆっくり確実に金持ちになろう」(木村剛著)で述べられていた考え方です。
「世の中で何が起きようが、会社が倒産しようが、クビになろうが、絶対に自分と家族の生活を守るという一点をベースにして、投資戦略を考えるべきなのです」という考え方に強く賛同するとともに、「職を失うというリスクに対しては、最低2年はみておきたい」という目安を妥当だと考えたため、自分の投資戦略として採用したものです。
世の中の投資本でも、生活防衛資金にあたる余裕資金を持つべきだという話はよく出ています。ただし、金額に関しては、給料の3ヵ月分とか半年分とか1年分とか、まちまちです。
「それにしても、2年分は多いのではないか?」というご意見を度々いただきます。人生の危機というものは平時ではなかなか想像しにくいものです。ここは、実際に体験した人の話の方が伝わると思いますので、実例をあげます。
■3ヵ月でもなく6ヵ月でもなく、2年分の生活防衛資金が必要な理由
ブロガー仲間のじゅん@氏は、私と同じくインデックス投資をしながら生活防衛資金を生活費の2年分用意していたひとりです。2年前に失職し、求職活動の末、無事転職されたのですが、その時のことをブログで「前向きな生活防衛資金」と題して、こう振り返っています。
また、失職でなくても、一度大災害に見舞われれば、給料の3ヵ月分やそこいらのお金では生活を立て直すことは難しいであろうということは、今の時代、多くのかたにご理解いただけることと思います。
ただし、「私はリストラされてもすぐに別の職に就ける」という自信や資格をお持ちのかたや、運用資産を損益にかかわらず躊躇なくいつでも換金できるというかたは、もっと少なくてもいいのかもしれません。凡人である私には無理ですが……。
これは個人的な印象ですが、証券業界にしがらみが多い専門家ほど、必要な余裕資金を少なく見積もる傾向があるように思います。証券業界側からすれば、個人投資家が生活防衛資金を多く貯めだすと、株式や投信などの金融商品に取り込める資金が少なくなってしまうことになりますので、無理もない話だと思います。
でも、個人にとって大切なのは自分と家族の生活です。証券業界の意向はこの際放っておいて、安全サイドで考えていきたいものです。
■100年に1度の金融危機の阿鼻叫喚の中でも、ぐっすり眠ることができた
さて、厳しい(?)生活防衛資金の話が続きましたが、2つの朗報があります。
ひとつは、生活防衛資金は「年収」ではなく「生活費」の2年分です。節約して生活費を下げれば、必要な生活防衛資金もぐっと下がるということです。
例えば、月20万円で暮らしている世帯が必要な生活防衛資金は480万円(20万×24ヵ月=480万円)にもなりますが、節約して月15万円で暮らせるようになれば、それが360万円(15万×24ヵ月=360万)で済むようになります。節約の力は偉大ですね!
もうひとつは、私が実際に資産運用をしていて実感したことなのですが、生活防衛資金は、私たちの生活を守ってくれるだけでなく、心の安定も守ってくれるという副次的効果があることです。
実際、2008年のリーマンショックに端を発した「100年に一度」と言われた世界金融危機の時でさえ、市場の阿鼻叫喚の中で私が何食わぬ顔で夜ぐっすり眠れたのは、たっぷりと確保してあった生活防衛資金のおかげだと本当に思います。むしろ、普段の生活の中では、こちらの副次的効果の方が生活防衛資金の主目的であると言っても過言ではないくらいです。
「生活防衛資金を貯めるだけで何年もかかってしまい、いつまでも投資を始められないじゃないか!」と思われるかも知れません。はやく投資を始めたい場合は、毎月の貯蓄額の半分を投資に回せばよいです。生活防衛資金を貯めながら投資を同時に行うわけです。今は100円から投資できますので、こまかい金額設定も可能です。
さて、家計を把握し、生活防衛資金を準備したら、いよいよインデックス投資に入ります。私は、インデックス投資においていちばん大切なことは、「自分のリスク許容度を知ること」だと思っています。
■インデックス投資でいちばん大切なのは、自分のリスク許容度を知ること
リスク許容度とは、投資家の許容できるリスクの範囲のことで、資産運用に伴い発生する損失を1年間でどの程度受け入れられるかの度合をいいます。○%という率で表したり、○万円という額で表したりします。
言い換えれば、「最悪の事態を想定する」ということでもあります。
「まだ始まってもいないのに、何故わざわざ最悪の事なんか考えなければいけないんだ?」と思われるかたもいらっしゃると思います。ごもっともです。
ストレスに悩む現代人に悩みを解決する方法を教える古典的名著「道は開ける」(デール・カーネギー著)では、「悩みを解決するための魔術的公式」として「最悪の事態を覚悟する」ことの効用を述べています。
人間というのは面白いもので、一度最悪の事態を覚悟してしまうと、逆に心が落ち着いてくるというのです。しかも、あとはその範囲内の出来事ならなんなくやり過ごせるようになるものです。
インデックス投資で「ほったらかし運用」をする場合にも、これが応用できます。
自分のリスク許容度を把握し、最大損失がその範囲に収まるような運用をすれば、あとは楽ちんほったらかしができます。
「いやいや、損失がリスク許容度の範囲内に収まるような運用って言ったって、そんな都合のいいことできるの?」とお思いのかた、ご安心を。
そこが、いわばインデックス投資の真髄とも言えるリスク・コントロールであり、その方法は、いまや無料のツールで楽々計算ができるのですが……それはまた別のお話。
(次回に続く)
P.S
今までのシリーズ記事一覧はこちらのカテゴリーから→インデックス投資の基礎
※本コラムは、ダイヤモンド・オンラインに2011年7月~10月に掲載された水瀬の連載コラム「金融のプロに騙されない等身大の資産作り」を、ダイヤモンド社の許可を受けて転載したものです。
※言わずもがなですが、投資判断は自己責任でお願いします。
私はインデックス投資家として、今までいろいろなマネー誌の取材をお受けする機会に恵まれましたが、その全てで編集さんに無理を言って、インデックス投資の話とは別に、生活防衛資金の必要性を盛り込んでいただくようお願いしてきました。
生活防衛資金とは、ひと言で言うと、何が起きても(リストラ・長期入院・災害など)自分と家族の生活をしっかり守るためのお金です。目安としては、「生活費の2年分」を、銀行預金など流動性の高い金融商品で確保することが望ましいと考えています。
これは、10年前に読んだ本「投資戦略の発想法―ゆっくり確実に金持ちになろう」(木村剛著)で述べられていた考え方です。
「世の中で何が起きようが、会社が倒産しようが、クビになろうが、絶対に自分と家族の生活を守るという一点をベースにして、投資戦略を考えるべきなのです」という考え方に強く賛同するとともに、「職を失うというリスクに対しては、最低2年はみておきたい」という目安を妥当だと考えたため、自分の投資戦略として採用したものです。
世の中の投資本でも、生活防衛資金にあたる余裕資金を持つべきだという話はよく出ています。ただし、金額に関しては、給料の3ヵ月分とか半年分とか1年分とか、まちまちです。
「それにしても、2年分は多いのではないか?」というご意見を度々いただきます。人生の危機というものは平時ではなかなか想像しにくいものです。ここは、実際に体験した人の話の方が伝わると思いますので、実例をあげます。
■3ヵ月でもなく6ヵ月でもなく、2年分の生活防衛資金が必要な理由
ブロガー仲間のじゅん@氏は、私と同じくインデックス投資をしながら生活防衛資金を生活費の2年分用意していたひとりです。2年前に失職し、求職活動の末、無事転職されたのですが、その時のことをブログで「前向きな生活防衛資金」と題して、こう振り返っています。
実際の私の経験としては、無職になるという追い込まれた状況下での転職活動は精神的にキツイですよ!!金銭面で余裕が無いと、もう何でも良いから仕事をくれと、不本意な職を選ぶ事になりかねません。
転職活動において、足元を見られずに、自分を安売りしないという前向きな対応をする為には、二年分の生活防衛資金を用意するというのは決して大げさな額ではないと思います(私自身も、職が決まるまでじっくり8ヵ月もかかりました)。
また、失職でなくても、一度大災害に見舞われれば、給料の3ヵ月分やそこいらのお金では生活を立て直すことは難しいであろうということは、今の時代、多くのかたにご理解いただけることと思います。
ただし、「私はリストラされてもすぐに別の職に就ける」という自信や資格をお持ちのかたや、運用資産を損益にかかわらず躊躇なくいつでも換金できるというかたは、もっと少なくてもいいのかもしれません。凡人である私には無理ですが……。
これは個人的な印象ですが、証券業界にしがらみが多い専門家ほど、必要な余裕資金を少なく見積もる傾向があるように思います。証券業界側からすれば、個人投資家が生活防衛資金を多く貯めだすと、株式や投信などの金融商品に取り込める資金が少なくなってしまうことになりますので、無理もない話だと思います。
でも、個人にとって大切なのは自分と家族の生活です。証券業界の意向はこの際放っておいて、安全サイドで考えていきたいものです。
■100年に1度の金融危機の阿鼻叫喚の中でも、ぐっすり眠ることができた
さて、厳しい(?)生活防衛資金の話が続きましたが、2つの朗報があります。
ひとつは、生活防衛資金は「年収」ではなく「生活費」の2年分です。節約して生活費を下げれば、必要な生活防衛資金もぐっと下がるということです。
例えば、月20万円で暮らしている世帯が必要な生活防衛資金は480万円(20万×24ヵ月=480万円)にもなりますが、節約して月15万円で暮らせるようになれば、それが360万円(15万×24ヵ月=360万)で済むようになります。節約の力は偉大ですね!
もうひとつは、私が実際に資産運用をしていて実感したことなのですが、生活防衛資金は、私たちの生活を守ってくれるだけでなく、心の安定も守ってくれるという副次的効果があることです。
実際、2008年のリーマンショックに端を発した「100年に一度」と言われた世界金融危機の時でさえ、市場の阿鼻叫喚の中で私が何食わぬ顔で夜ぐっすり眠れたのは、たっぷりと確保してあった生活防衛資金のおかげだと本当に思います。むしろ、普段の生活の中では、こちらの副次的効果の方が生活防衛資金の主目的であると言っても過言ではないくらいです。
「生活防衛資金を貯めるだけで何年もかかってしまい、いつまでも投資を始められないじゃないか!」と思われるかも知れません。はやく投資を始めたい場合は、毎月の貯蓄額の半分を投資に回せばよいです。生活防衛資金を貯めながら投資を同時に行うわけです。今は100円から投資できますので、こまかい金額設定も可能です。
さて、家計を把握し、生活防衛資金を準備したら、いよいよインデックス投資に入ります。私は、インデックス投資においていちばん大切なことは、「自分のリスク許容度を知ること」だと思っています。
■インデックス投資でいちばん大切なのは、自分のリスク許容度を知ること
リスク許容度とは、投資家の許容できるリスクの範囲のことで、資産運用に伴い発生する損失を1年間でどの程度受け入れられるかの度合をいいます。○%という率で表したり、○万円という額で表したりします。
言い換えれば、「最悪の事態を想定する」ということでもあります。
「まだ始まってもいないのに、何故わざわざ最悪の事なんか考えなければいけないんだ?」と思われるかたもいらっしゃると思います。ごもっともです。
ストレスに悩む現代人に悩みを解決する方法を教える古典的名著「道は開ける」(デール・カーネギー著)では、「悩みを解決するための魔術的公式」として「最悪の事態を覚悟する」ことの効用を述べています。
人間というのは面白いもので、一度最悪の事態を覚悟してしまうと、逆に心が落ち着いてくるというのです。しかも、あとはその範囲内の出来事ならなんなくやり過ごせるようになるものです。
インデックス投資で「ほったらかし運用」をする場合にも、これが応用できます。
自分のリスク許容度を把握し、最大損失がその範囲に収まるような運用をすれば、あとは楽ちんほったらかしができます。
「いやいや、損失がリスク許容度の範囲内に収まるような運用って言ったって、そんな都合のいいことできるの?」とお思いのかた、ご安心を。
そこが、いわばインデックス投資の真髄とも言えるリスク・コントロールであり、その方法は、いまや無料のツールで楽々計算ができるのですが……それはまた別のお話。
(次回に続く)
P.S
今までのシリーズ記事一覧はこちらのカテゴリーから→インデックス投資の基礎
※本コラムは、ダイヤモンド・オンラインに2011年7月~10月に掲載された水瀬の連載コラム「金融のプロに騙されない等身大の資産作り」を、ダイヤモンド社の許可を受けて転載したものです。
※言わずもがなですが、投資判断は自己責任でお願いします。
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