【第3回】 期待リターンは維持したままに、リスクだけを低減できるのが分散投資のスゴさ――金融のプロに騙されない等身大の資産作り
水瀬ケンイチ

■将来の不確実性を定義するのがリスク。大儲けの可能性がある商品は危険度も高い!?
第2回のコラムの最後で、リスクのお話が出ました。
でも、そもそも、リスクって何でしょうか?
普段、私たちが生活やビジネスのなかで使うリスクという言葉は、「危険」や「危険度」といったようなマイナスの意味を持っています。「リスクを避けろ」というように使われています。
でも、面白いことに、金融の世界ではリスクの定義が少し違います。金融の世界では、リスクとは、「将来の結果の不確実さ」のことを表します。
将来の結果の不確実さという意味では、損する方向だけでなく、儲かる方向にも当てはまります。リスクとは、損するマイナスの可能性であると同時に、得をするプラスの可能性でもあるのです。
例えば、定期預金は予め金利が決まっているので、将来の結果の不確実性はとても低い(予めリターンが決まっているので当たり前ですが)。これを「リスクが低い」と言います。
それに対して、どこかの企業の株式は、一発当たれば大儲けできるかもしれないし、その企業が倒産して大損するかもしれないので、将来の結果の不確実性が高い。大儲けする場合も大損する場合も同じように、これを「リスクが高い」と言います。
■「将来の不確実性」という一見あいまいなリスクだが、じつは数字でズバっと表現できる!
そしてこのリスク、定性的な概念ではなく、定量的に「数字」で表せます。
金融市場はふらふらと適当な値動きをしていて、一見予測不能です。金融のプロですら、値動きを捕らえて確実に儲けることはできないというのが現実です(コラム第1回参照)。
この捉えどころのない対象に対して、「統計学」の手法を使い確率・統計の問題として、リスクを数字で表してみようと考えた人がいました。面白いアプローチです。
「将来の結果の不確実さ」のことを統計学では「分散」といい、その度合いのことを「標準偏差」といいます。分散や標準偏差は、過去のデータさえあれば、数学的に計算ができます。
リスク(標準偏差)は「○%」と数字で表せるのです。
例えば、「リスク(標準偏差)10%」という投資商品は、1年後に、平均値から±10%以内に68.27%の確率で収まり(1標準偏差)、±20%以内に95.45%の確率で収まり(2標準偏差)、±30%以内に99.73%の確率で収まる(3標準偏差)と考えます。※リターンは正規分布するという前提
ちなみに、68.27%とか95.45%といった半端な数字の発生確率は、数学的なものでありリスクの大小にかかわらず不変です。

1σ(標準偏差)と-1σの間に68.27%、2σと-2σだと95.45%が含まれる。両サイドに行くほど、発生確率が低い。
■期待リターンも数字でズバっと表現できる!
でも、金融市場をリスク(標準偏差)だけで捉えることはできません。もうひとつ必要になる指標が「期待リターン」です。
「期待リターン」とは、その投資対象に1年間投資した場合に、1年後に実現する可能性が最も高いと考えられるリターンのこと。期待リターン「+○%」とこちらも数字で表します。
先ほどのリスクの説明で、「平均値から±10%以内に68.27%の確率で収まり…」という説明ができてましたが、この「平均値」にあたる基準点が「期待リターン」です。
例えば、期待リターン5%でリスク(標準偏差)10%の金融商品は1年後に、+15%から-5%の範囲に68.27%の確率で収まり(1標準偏差)、+25%から-15%の範囲に95.45%の確率で収まる(2標準偏差)と表せます。
ただ、期待リターンはリスクのように過去のデータだけで計算できるというものではなく、過去のデータはもちろん参考にしつつも、将来の見通しや別の理屈も勘案するべき数字であり、個人が自分で算出するのは難しいです。実際は、簡便法として年金基金等プロが算出した数字で代用することが多いです。
ブロガー仲間でも、公的年金のデータをそのまま使っているかたから、複数の機関投資家のデータを平均して使っているかた、プロのデータをもとに独自の味付けをしているかたなど、皆さん工夫しているようです。
■期待リターンとリスクで、多様な金融商品が簡単に比較できる
さて、「リスク(標準偏差)」と「期待リターン」の2つの数字があれば、世の中にある多種多様なアセットクラス(資産の大まかな種類)や個々の金融商品を、同じ指標で横並びに比較できるようになります。
例えば、日本の公的年金を運用しているGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)では、国内外の株式・債券について、以下のように見込んでいるようです。

出典:GPIF「基本ポートフォリオの検証について(平成20年6月23日)」
こうして、各アセットクラスの期待リターンとリスクを横並びで見ると、「なんだ、日本株式は、外国株式よりも期待リターンが低いくせに、リスクは高いのか…」などという比較ができて面白いですね。
■期待リターンを下げずに、リスクだけを下げる方法がある
ここまで、リスクと期待リターンを見てきましたが、これが分かると、投資家が活用すべき「分散効果」の有用性が分かるようになります。
分散効果とは、簡単に言えば、値動きの違う投資対象を組み合わせることで、リスクを下げることができる効果のことです。違う値動きが相殺されて、マイルドな値動きになるということです。
「そんなの当たり前じゃん?」とお思いのかたもいらっしゃると思いますが、話はここで終わりません。
例えば、期待リターンが5%の投資対象が10銘柄あったとすると、これら10銘柄を組み合わせると、なんと期待リターン5%は「維持」したまま、リスク「だけ」を下げるという、投資家にとって実に都合のよいことが実現できるのです(リスクの下げ幅については相関係数というまた別の指標によりますが)。
ちなみに、期待リターンとリスクというパラメーターを利用した分散効果の理屈は、米国のハリー・マーコウィッツの「平均分散アプローチ」(mean- variance approach)で統計的・確率的に解明されており、彼はその功績でノーベル経済学賞を受賞しています。理屈そのものに興味(あるいは疑い)があるかたは、原典を紐解いてみてください。
難しい理屈はさておき、金融市場において、「分散効果」のように誰もが簡単に再現でき、かつ強力に通用する法則は、実はそう多くありません。個人投資家がこれを使わない手はありません。
■インデックス投資は、リスクを低減する究極の分散投資だった
ここまでの話で、勘のよいかたなら、「もしかしたらインデックスって究極の分散投資対象なんじゃないの?」と気づかれるかもしれません。
その通りです。インデックス投資の投資対象であるインデックスは、平均株価であったり平均債券価格であったりするので、インデックスそのものが何十~何千銘柄の株式や債券などに分散された成果物だと言えます。
更に、私が推奨するインデックス投資では、国内、先進国、新興国の各アセットクラスのインデックスを組み合わせます。インデックス投資は、「分散効果」を最大限に活用した投資法なのです。
では、いったいどんなインデックスの組み合わせがよいのでしょうか?
じつは「アセットアロケーション(資産配分)で、リターンの時系列変動の9割が決まる」という研究成果もあります。この組み合わせは非常に重要なポイントなのですが……それはまた別のお話。
(次回に続く)
P.S
今までのシリーズ記事一覧はこちらのカテゴリーから→インデックス投資の基礎
※本コラムは、ダイヤモンド・オンラインに2011年7月~10月に掲載された水瀬の連載コラム「金融のプロに騙されない等身大の資産作り」を、ダイヤモンド社の許可を受けて転載したものです。
※言わずもがなですが、投資判断は自己責任でお願いします。
そしてこのリスク、定性的な概念ではなく、定量的に「数字」で表せます。
金融市場はふらふらと適当な値動きをしていて、一見予測不能です。金融のプロですら、値動きを捕らえて確実に儲けることはできないというのが現実です(コラム第1回参照)。
この捉えどころのない対象に対して、「統計学」の手法を使い確率・統計の問題として、リスクを数字で表してみようと考えた人がいました。面白いアプローチです。
「将来の結果の不確実さ」のことを統計学では「分散」といい、その度合いのことを「標準偏差」といいます。分散や標準偏差は、過去のデータさえあれば、数学的に計算ができます。
リスク(標準偏差)は「○%」と数字で表せるのです。
例えば、「リスク(標準偏差)10%」という投資商品は、1年後に、平均値から±10%以内に68.27%の確率で収まり(1標準偏差)、±20%以内に95.45%の確率で収まり(2標準偏差)、±30%以内に99.73%の確率で収まる(3標準偏差)と考えます。※リターンは正規分布するという前提
ちなみに、68.27%とか95.45%といった半端な数字の発生確率は、数学的なものでありリスクの大小にかかわらず不変です。

1σ(標準偏差)と-1σの間に68.27%、2σと-2σだと95.45%が含まれる。両サイドに行くほど、発生確率が低い。
■期待リターンも数字でズバっと表現できる!
でも、金融市場をリスク(標準偏差)だけで捉えることはできません。もうひとつ必要になる指標が「期待リターン」です。
「期待リターン」とは、その投資対象に1年間投資した場合に、1年後に実現する可能性が最も高いと考えられるリターンのこと。期待リターン「+○%」とこちらも数字で表します。
先ほどのリスクの説明で、「平均値から±10%以内に68.27%の確率で収まり…」という説明ができてましたが、この「平均値」にあたる基準点が「期待リターン」です。
例えば、期待リターン5%でリスク(標準偏差)10%の金融商品は1年後に、+15%から-5%の範囲に68.27%の確率で収まり(1標準偏差)、+25%から-15%の範囲に95.45%の確率で収まる(2標準偏差)と表せます。
ただ、期待リターンはリスクのように過去のデータだけで計算できるというものではなく、過去のデータはもちろん参考にしつつも、将来の見通しや別の理屈も勘案するべき数字であり、個人が自分で算出するのは難しいです。実際は、簡便法として年金基金等プロが算出した数字で代用することが多いです。
ブロガー仲間でも、公的年金のデータをそのまま使っているかたから、複数の機関投資家のデータを平均して使っているかた、プロのデータをもとに独自の味付けをしているかたなど、皆さん工夫しているようです。
■期待リターンとリスクで、多様な金融商品が簡単に比較できる
さて、「リスク(標準偏差)」と「期待リターン」の2つの数字があれば、世の中にある多種多様なアセットクラス(資産の大まかな種類)や個々の金融商品を、同じ指標で横並びに比較できるようになります。
例えば、日本の公的年金を運用しているGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)では、国内外の株式・債券について、以下のように見込んでいるようです。

出典:GPIF「基本ポートフォリオの検証について(平成20年6月23日)」
こうして、各アセットクラスの期待リターンとリスクを横並びで見ると、「なんだ、日本株式は、外国株式よりも期待リターンが低いくせに、リスクは高いのか…」などという比較ができて面白いですね。
■期待リターンを下げずに、リスクだけを下げる方法がある
ここまで、リスクと期待リターンを見てきましたが、これが分かると、投資家が活用すべき「分散効果」の有用性が分かるようになります。
分散効果とは、簡単に言えば、値動きの違う投資対象を組み合わせることで、リスクを下げることができる効果のことです。違う値動きが相殺されて、マイルドな値動きになるということです。
「そんなの当たり前じゃん?」とお思いのかたもいらっしゃると思いますが、話はここで終わりません。
例えば、期待リターンが5%の投資対象が10銘柄あったとすると、これら10銘柄を組み合わせると、なんと期待リターン5%は「維持」したまま、リスク「だけ」を下げるという、投資家にとって実に都合のよいことが実現できるのです(リスクの下げ幅については相関係数というまた別の指標によりますが)。
ちなみに、期待リターンとリスクというパラメーターを利用した分散効果の理屈は、米国のハリー・マーコウィッツの「平均分散アプローチ」(mean- variance approach)で統計的・確率的に解明されており、彼はその功績でノーベル経済学賞を受賞しています。理屈そのものに興味(あるいは疑い)があるかたは、原典を紐解いてみてください。
難しい理屈はさておき、金融市場において、「分散効果」のように誰もが簡単に再現でき、かつ強力に通用する法則は、実はそう多くありません。個人投資家がこれを使わない手はありません。
■インデックス投資は、リスクを低減する究極の分散投資だった
ここまでの話で、勘のよいかたなら、「もしかしたらインデックスって究極の分散投資対象なんじゃないの?」と気づかれるかもしれません。
その通りです。インデックス投資の投資対象であるインデックスは、平均株価であったり平均債券価格であったりするので、インデックスそのものが何十~何千銘柄の株式や債券などに分散された成果物だと言えます。
更に、私が推奨するインデックス投資では、国内、先進国、新興国の各アセットクラスのインデックスを組み合わせます。インデックス投資は、「分散効果」を最大限に活用した投資法なのです。
では、いったいどんなインデックスの組み合わせがよいのでしょうか?
じつは「アセットアロケーション(資産配分)で、リターンの時系列変動の9割が決まる」という研究成果もあります。この組み合わせは非常に重要なポイントなのですが……それはまた別のお話。
(次回に続く)
P.S
今までのシリーズ記事一覧はこちらのカテゴリーから→インデックス投資の基礎
※本コラムは、ダイヤモンド・オンラインに2011年7月~10月に掲載された水瀬の連載コラム「金融のプロに騙されない等身大の資産作り」を、ダイヤモンド社の許可を受けて転載したものです。
※言わずもがなですが、投資判断は自己責任でお願いします。
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