【第4回】 保有資産の値動きの9割がこれで決まる!?アセットアロケーション(資産配分)を簡単に計算する
水瀬ケンイチ

ここに、衝撃のデータがあります。
『国内追加型公募投信の資産分配型ファンドにおけるポリシー・アセットアロケーションの説明力は、(1)リターンの時系列変動に関しては約90%、(2)ファンド間のリターン格差に関しては約70%、(3)ファンド間のリスク格差に関しては約95%、(4)リターン水準に関しては約95%である』(「ポリシー・アセットアロケーションの説明力」小松原宰氏)
急に難しい言葉が出てきてなんのこっちゃ?と思われたかもしれませんが、投資家の資産運用において、とても重要なことが書かれています。
要するに、『投資成果はアセットアロケーション(資産配分)でほとんど決まってしまう』ということです。もっと簡単にいうと、投資資金を大まかな資産の種類(国内外の株・債券など)にどれぐらいの割合で投資するのかによって保有資産の値動きがほぼ決まってしまうということです(正確には「ほぼ説明できる」ですが)。
■銘柄選びや売買タイミングよりも、どの資産にどんな割合で投資するかが重要だ!
実は、金融のプロの間では、このことは半ば常識になっています。「え?そんな話聞いたことないよ。銘柄選択とか売買タイミングが重要じゃないの?」というかた、いらっしゃるのではないでしょうか。
証券会社やマネー誌の発信する情報は、「次に騰がる銘柄はズバリこれ!」とか「投信分配金利回りランキングベスト10!」とかそんな情報ばかりで、アセットアロケーションの重要性についての情報など私たちの耳にはほとんど入ってきません。これは、いったいどういうことでしょう?
それは、金融機関が売りたい商品と、投資家が必要な商品が違うからです。金融機関は、投資家のアセットアロケーションがどうなっていようがお構いなしです。自社の利益となる商品、利幅が大きな商品を勧めるだけです。むしろ、投資家がアセットアロケーションの重要性に気づいてしまうと、売りたいものが売れなくなるので困るかもしれません。
一方、投資家が必要な商品は、本来、金融機関のおすすめ商品とは関係がありません。個々人が目指すアセットアロケーションを作るために、必要なアセットクラスの商品を自分で選んでいくのが本来の形です。
「アセットアロケーションとやら重要なのは分かったが、実際にどうやって決めればいいの?」という疑問が当然出てくると思います。
インデックス投資の観点で、アセットアロケーションを丹念に研究してきた結果、アセットアロケーションの決定方法には、「ひとつの大前提」と、大まかに「2通りの方法」があるようだということが分かってきました。
■希望するリターンではなく、リスクから考えるのが大前提
それは、自分のリスク許容度(コラム第2回参照)=耐えられる最大損失額を「毎年○○万円の損失まで」とハッキリと把握し、その範囲に収まるように、アセットアロケーションを作るということです。
よく、「将来の年金では生活費が○百万円足りないので、毎年○%のリターンが見込めるようなアセットアロケーションを組みましょう」といった、将来の必要金額から逆算した、いわば「希望リターン」からアセットアロケーションを決めるような手順が紹介されていることがあります。
リターンから決めるとどうしてもリスクの理解が手薄になりがちです。運用期間中のリターンは年ごとに山あり谷ありの繰り返しになります。この方法では、たまに訪れる深い谷(市場暴落局面)でリスク許容度を超えてしまい辛くなって投資をやめてしまう恐れがあります。そうなると、挽回のチャンスを迎えることなく、そこで全てが終了です。
実際、2008年のリーマン・ショックに端を発した世界金融危機では、多くの個人投資家が市場から去ることになりました。その後、新興国株式を中心に、世界の市場は力強く回復したのですが…。
リターンではなく、リスクからアセットアロケーションを決めるという手順を間違えないでください。
■「2通りの方法」とは何か?
ひとつは、「世界市場ポートフォリオ」という考え方です。世界各国の株式時価総額と同じ比率で、アセットアロケーションを作るということです。
これは、米国のハリー・マーコウィッツ(コラム第3回参照)から、ジェームズ・トービン、ウィリアム・シャープと続く、いわゆる「現代ポートフォリオ理論」(Modern portfolio theory)の最終到達点、「株式市場そのものが唯一絶対の効率的ポートフォリオである」という結論をその根拠にしています。
「現代ポートフォリオ理論」は、その前提となる「効率的市場仮説」(市場価格はすべての投資家の知識と期待を反映しているという理論)さえ正しければ、最も効率的なポートフォリオは、一本道で同じ結論=世界市場ポートフォリオにたどり着くことが、数学的に証明されています。インデックス投資家の中にも信奉者が多い理論です。
今だったら、「MSCI オール・カントリー・ワールド・インデックス」というインデックスが、日本株式・先進国株式・新興国株式を含めた世界市場ポートフォリオそのものです。アセットクラスごとに分けると、概算で、日本株式:先進国株式:新興国株式=1:7:2ぐらいになります。
もうひとつの方法は、「各アセットクラスのリスク・期待リターン・相関係数からよい組み合わせを計算する」という方法です。市場はそこまで効率的ではないと考えるかたは、こちらの方法をとることが多いようです。
■各資産クラスに数字を入力するだけで、リスクと期待リターンがわかる便利ツールも!
でも、「手元にデータもないし、データがあっても計算方法が分からないよ」というかたがいらっしゃると思います。私もそうでした。そういう私たちを助けてくれる強力なサポートツールが、なんと無料でネット上に公開されていますので、ご紹介します。
■ファンドの海
長期投資予想/アセットアロケーション分析
■タロットのポートフォリオ理論[ココログ分室]
効率的フロンティア計算シート Ver.1.1.1
特におすすめなのが、「ファンドの海」さんのツールです。最適解は、元となるデータの値によって大きく異なってきます。このツールは、期待リターンやリスクの値を自分で変更できるところが、初心者から上級者まで使える特長だと思います。
各アセットクラスの入力欄に、日本株式に○○%、先進国株式に○○%、新興国株式に○○%と数字を入れていくと、そのポートフォリオの期待リターンとリスク(標準偏差)が自動計算されます。さらには○年間運用後の最頻値、元本割れの確率等も計算されるので、資産運用のイメージがしやすいと思います。
※ご注意事項
各ツールの元となるデータは異なりますのでよくご確認ください。また、当然のことながらツールの利用は自己責任でお願いします。
■組み合わせは無限のパターンがあるが、ひとつの目安を紹介
リスクとリターンを見て自分でよいと思う組み合わせを探せばいいのですが、自由に数字を入れていくと殆ど無限のパターンがありますので、ひとつの目安をお伝えします。
拙書「ほったらかし投資術 インデックス運用実践ガイド」で、共著の山崎元氏が、独自のデータに基づき算出したおすすめが、日本株式:先進国株式:新興国株式=5:4:1です。(山崎氏のアセットアロケーション計算の元となる各種データは、前出の拙書に掲載されています)
ためしに、先ほどの「2通りの方法」のアセットアロケーションを、ファンドの海さんのツール「長期投資予想/アセットアロケーション分析」に入力し、ポートフォリオの期待リターンとリスクを算出してみましょう。
①世界市場ポートフォリオ(日本株式:先進国株式:新興国株式=1:7:2)
期待リターン:5.83%
リスク(標準偏差):19.62%
②山崎氏のポートフォリオ(日本株式:先進国株式:新興国株式=5:4:1)
期待リターン:5.33%
リスク(標準偏差):17.82%
まだまだ、リスクが高いですね。ここまではアセットアロケーション決定のいわば5合目、まだ半分です。
今までは株式クラスの組み合わせの話しか出ていませんが、債券クラスをどうするのかということ、自分のリスク許容度をどう反映するのかということ、これらが決定的に重要なのですが……それはまた別のお話。
(次回につづく)
P.S
今までのシリーズ記事一覧はこちらのカテゴリーから→インデックス投資の基礎
※本コラムは、ダイヤモンド・オンラインに2011年7月~10月に掲載された水瀬の連載コラム「金融のプロに騙されない等身大の資産作り」を、ダイヤモンド社の許可を受けて転載したものです。
※言わずもがなですが、投資判断は自己責任でお願いします。
それは、自分のリスク許容度(コラム第2回参照)=耐えられる最大損失額を「毎年○○万円の損失まで」とハッキリと把握し、その範囲に収まるように、アセットアロケーションを作るということです。
よく、「将来の年金では生活費が○百万円足りないので、毎年○%のリターンが見込めるようなアセットアロケーションを組みましょう」といった、将来の必要金額から逆算した、いわば「希望リターン」からアセットアロケーションを決めるような手順が紹介されていることがあります。
リターンから決めるとどうしてもリスクの理解が手薄になりがちです。運用期間中のリターンは年ごとに山あり谷ありの繰り返しになります。この方法では、たまに訪れる深い谷(市場暴落局面)でリスク許容度を超えてしまい辛くなって投資をやめてしまう恐れがあります。そうなると、挽回のチャンスを迎えることなく、そこで全てが終了です。
実際、2008年のリーマン・ショックに端を発した世界金融危機では、多くの個人投資家が市場から去ることになりました。その後、新興国株式を中心に、世界の市場は力強く回復したのですが…。
リターンではなく、リスクからアセットアロケーションを決めるという手順を間違えないでください。
■「2通りの方法」とは何か?
ひとつは、「世界市場ポートフォリオ」という考え方です。世界各国の株式時価総額と同じ比率で、アセットアロケーションを作るということです。
これは、米国のハリー・マーコウィッツ(コラム第3回参照)から、ジェームズ・トービン、ウィリアム・シャープと続く、いわゆる「現代ポートフォリオ理論」(Modern portfolio theory)の最終到達点、「株式市場そのものが唯一絶対の効率的ポートフォリオである」という結論をその根拠にしています。
「現代ポートフォリオ理論」は、その前提となる「効率的市場仮説」(市場価格はすべての投資家の知識と期待を反映しているという理論)さえ正しければ、最も効率的なポートフォリオは、一本道で同じ結論=世界市場ポートフォリオにたどり着くことが、数学的に証明されています。インデックス投資家の中にも信奉者が多い理論です。
今だったら、「MSCI オール・カントリー・ワールド・インデックス」というインデックスが、日本株式・先進国株式・新興国株式を含めた世界市場ポートフォリオそのものです。アセットクラスごとに分けると、概算で、日本株式:先進国株式:新興国株式=1:7:2ぐらいになります。
もうひとつの方法は、「各アセットクラスのリスク・期待リターン・相関係数からよい組み合わせを計算する」という方法です。市場はそこまで効率的ではないと考えるかたは、こちらの方法をとることが多いようです。
■各資産クラスに数字を入力するだけで、リスクと期待リターンがわかる便利ツールも!
でも、「手元にデータもないし、データがあっても計算方法が分からないよ」というかたがいらっしゃると思います。私もそうでした。そういう私たちを助けてくれる強力なサポートツールが、なんと無料でネット上に公開されていますので、ご紹介します。
■ファンドの海
長期投資予想/アセットアロケーション分析
■タロットのポートフォリオ理論[ココログ分室]
効率的フロンティア計算シート Ver.1.1.1
特におすすめなのが、「ファンドの海」さんのツールです。最適解は、元となるデータの値によって大きく異なってきます。このツールは、期待リターンやリスクの値を自分で変更できるところが、初心者から上級者まで使える特長だと思います。
各アセットクラスの入力欄に、日本株式に○○%、先進国株式に○○%、新興国株式に○○%と数字を入れていくと、そのポートフォリオの期待リターンとリスク(標準偏差)が自動計算されます。さらには○年間運用後の最頻値、元本割れの確率等も計算されるので、資産運用のイメージがしやすいと思います。
※ご注意事項
各ツールの元となるデータは異なりますのでよくご確認ください。また、当然のことながらツールの利用は自己責任でお願いします。
■組み合わせは無限のパターンがあるが、ひとつの目安を紹介
リスクとリターンを見て自分でよいと思う組み合わせを探せばいいのですが、自由に数字を入れていくと殆ど無限のパターンがありますので、ひとつの目安をお伝えします。
拙書「ほったらかし投資術 インデックス運用実践ガイド」で、共著の山崎元氏が、独自のデータに基づき算出したおすすめが、日本株式:先進国株式:新興国株式=5:4:1です。(山崎氏のアセットアロケーション計算の元となる各種データは、前出の拙書に掲載されています)
ためしに、先ほどの「2通りの方法」のアセットアロケーションを、ファンドの海さんのツール「長期投資予想/アセットアロケーション分析」に入力し、ポートフォリオの期待リターンとリスクを算出してみましょう。
①世界市場ポートフォリオ(日本株式:先進国株式:新興国株式=1:7:2)
期待リターン:5.83%
リスク(標準偏差):19.62%
②山崎氏のポートフォリオ(日本株式:先進国株式:新興国株式=5:4:1)
期待リターン:5.33%
リスク(標準偏差):17.82%
まだまだ、リスクが高いですね。ここまではアセットアロケーション決定のいわば5合目、まだ半分です。
今までは株式クラスの組み合わせの話しか出ていませんが、債券クラスをどうするのかということ、自分のリスク許容度をどう反映するのかということ、これらが決定的に重要なのですが……それはまた別のお話。
(次回につづく)
P.S
今までのシリーズ記事一覧はこちらのカテゴリーから→インデックス投資の基礎
※本コラムは、ダイヤモンド・オンラインに2011年7月~10月に掲載された水瀬の連載コラム「金融のプロに騙されない等身大の資産作り」を、ダイヤモンド社の許可を受けて転載したものです。
※言わずもがなですが、投資判断は自己責任でお願いします。
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