一方、「ブレーク・イーブン・インフレ率」は将来の期待インフレ率を表さないという説も

水瀬ケンイチ

前回の記事「日本は10年後もデフレだと市場が推測している!?」で、

ブレーク・イーブン・インフレ率=10年債利回り-10年物価連動債利回り

で、ブレーク・イーブン・インフレ率、つまり10年後の期待インフレ率が計算できると書きました。めんどくさい言い方では、これをフィッシャー方程式といい、

期待インフレ率=名目金利-実質金利

と表されます。
「名目金利」部分に10年債利回りをあてはめ、「実質金利」部分に10年物価連動債利回りをあてはめることで、10年後の期待インフレ率を算出できると言われており、前回の記事では、そのように計算して記事を書きました。

一方で、利付国債利回りから物価連動国債利回りを引くだけでは、期待インフレ率は算出できないという説もあるようです。
ええっ?どういうこと!?

ニッセイ基礎研究所 ニッセイ年金ストラテジー2011年12月号
2011/12/01 物価連動国債はインフレ率に対する市場の評価指標か?

詳しくは上記レポートをご覧いただきたいのですが、上記フィッシャー方程式について、10年債利回りを名目金利と見なすのはいいけど、実際の市場を見ていると、10年物価連動債利回りを実質金利と見なすのはどうかという問題提起です。

レポートによると、「2008年9月のリーマン・ショックをきっかけとして、物価連動国債は大きく売り込まれて買い手が殆どいない状態となったが、買い手不在(流動性の低下)による価格下落(利回り上昇)は買入消却によって沈静化していった」ことをふまえて、物価連動国債の利回りを、実質金利に加えて「流動性プレミアム」も勘案し、

物価連動国債利回り=実質金利+流動性プレミアム

と見なすべきだろうというのです。
「流動性プレミアム」とは、「流動性の低い金融資産の保有者が、換金の際に感ずる不便さの代償として高い金利を要求した場合の、金融資産間の金利差のこと」(金融用語辞典より)です。

なるほど、リーマン・ショックの時のように信用不安で換金が怪しくなった場合は、物価連動債利回りにも、その分、金利が上乗せになっただろ?ということのようです。
となると先ほどのフィッシャー方程式「期待インフレ率=名目金利-実質金利」は、

期待インフレ率=名目金利-(実質金利+流動性プレミアム)

となり、カッコを外すと、

期待インフレ率=名目金利-実質金利-流動性プレミアム

となります。
上記レポートでは、商品市況の上昇傾向継続の中で、いまだに日本ではデフレが続いている(=期待インフレ率がマイナス)ということは、きっと「流動性プレミアム」が大きいからに違いない!物価連動債は償還期限までの持ち切りを前提にすれば流動性の心配はほぼないから、期待インフレ率は意外と良い(=物価連動債が儲かる)のでは?と結論づけています。

そんなことはどうでもよろしい。
なぜなら、日本の個人投資家は、償還期限まで持ち切りできるような物価連動債の生債券には投資できないから。
(物価連動債に投資する投資信託を買うことしかできない。機関投資家は別)

そんなことより、ここで私たち個人投資家が注目すべきポイントは、10年後のインフレ率です。
今のところブレーク・イーブン・インフレ率≒期待インフレ率は、マイナスのままですので、市場は10年後もデフレだと推測していることになっています。

ブレイク・イーブン・インフレ率
日本相互証券WEBサイトより引用)

でも、もし上記公式が成り立つのであれば、世の中が安定するなどして流動性プレミアムが下がれば、右辺のマイナス要素が小さくなり、結果として、左辺の期待インフレ率を押し上げます。
結果として、10年後のデフレ克服もありえるのではないか。

……

まあ、流動性プレミアムが具体的な数値として算出できるわけでもない(と思う)ので、数字遊びみたいなものかもしれません。
それでも、市場に「日本は10年後もデフレ!」と言い切られるよりは、少しはマシな結論かも。
ひとつの考え方として、知っておく価値はあるレポートでした。

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Posted by水瀬ケンイチ