「低迷相場でも負けない資産運用の新セオリー」(朝倉智也著)はアグレッシブな「海外ETFのすすめ」
水瀬ケンイチ
「低迷相場でも負けない資産運用の新セオリー」(朝倉智也著)を読みました。
本書は、日本の投資信託市場の問題点を明らかにし、その対案としての「海外ETF」を使った資産運用を提唱している良書です。ただし、その内容は標準的な投資理論からすると、かなりアグレッシブなものになっています。
低迷相場でも負けない資産運用の新セオリー
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朝倉智也
朝日新聞出版 (2012-12-07)
売り上げランキング: 2867
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本書は、日本の投資信託市場の問題点を明らかにし、その対案としての「海外ETF」を使った資産運用を提唱している良書です。ただし、その内容は標準的な投資理論からすると、かなりアグレッシブなものになっています。
まず、今まで投資の古典を読み込んだ投資家であっても、本書をご一読されることをおすすめします。なぜなら、既存の投資本の投資理論とやや異なる提案がされており、それがいわゆる「トンデモ本」筆者ではない、実績ある投信評価会社の社長自らの提案だからです。
個人的な感想として、本書の良いところは以下のとおりです。
・日本の投信業界の問題点分析が非常に的確
日本の投信の販売手数料・信託報酬が右肩上がりであることや、それを助長する証券会社・銀行の営業方針について、鋭い指摘が行われています。また、海外の金融機関が驚くほど複雑な「毎月分配&通貨選択型投信」など複雑な商品がどんどん新規設定される理由を批判しています。
なお、これらの指摘は、昨年の金融審議会のモーニングスターの素晴らしいレポートに基づいており、モーニングスターらしい豊富なデータとともに解説されているので説得力があります。
<関連記事>
2011/12/23 【投信業界は注目すべし】 金融審議会のモーニングスター資料が素晴らしすぎる件
これらを知っているかいないかで、今後の資産運用に臨むスタンス、および、金融機関との付き合い方が大きく変わってくると思います。
・使える海外ETFリストとそのラインナップが掲載されている
たくさんある海外ETFの中でも、日本の投資家が活用するのに最適なものが厳選されています。選定基準も明確で、純資産残高・コストに加えて、「基準価額と市場価格の乖離」もしっかりフォローされています。
コア資産に活用すべき厳選12本のリストに加え、サテライト資産に活用できる8本のリストもあり、幅広いニーズに応えられるものになっています。
私も資産運用のメイン商品として海外ETFに投資していますが、上記のラインナップと選定基準は納得です。特に、「基準価額と市場価格の乖離」の適正範囲について、自分の拙い経験則で「プラスマイナス1%」の範囲内なら妥当という目安を設けていましたが、本書も同じ基準が提唱されていたので心強く思いました。
・モーニングスターのETF情報の活用法が具体的
モーニングスターの「海外ETF情報の集め方」や「個別銘柄情報ページのチェックポイント」は、写真入りで解説されており、あまり知られていない海外ETFの理解促進に貢献するものだと思います。米国のMorningstar情報についても言及されています。
実は、私もブログや連載コラム執筆のために、日米両方のモーニングスターのETF情報を活用しています。
・100%日本株「一本足打法」からの移行に配慮
日本の投信業界の問題点に例としてあげられたような投信を販売会社にすすめられて保有している投資家さんに対する配慮が行き届いています。一気に乗り換えるのに抵抗がある方のために、現実的な移行方法が提案されています。
一方、個人的な感想として、かなりアグレッシブな内容で、注意が必要と思われるポイントは以下のとおり。
・新興国株式・債券への過度な信認を感じる
本書では、新興国株式・債券の比率を非常に高めに提案しています。しかし、根拠となっているのは2030年など将来のGDP予測等、IMF(国際通貨基金)やゴールドマン・サックスの予測データですが、そもそもこれらの将来予測の精度は極めて低いのが実態です。IMFは毎年のように見通しを変更しますし、ゴールドマン・サックスにいたっては、わずか1年後の予測も当てられず、アクティブファンドで満足な実績があげられていません。
また、前著でもそうでしたが、提案されている各種ポートフォリオについて、期待リターンとリスク(標準偏差)が数字で明示されていません。新興国資産を増やせば、期待リターンが上がると同時に、リスクも上がりますので、その点がフォローされていないのは、補足が必要になる部分だと思います。
本書内の新興国への信認は、少し割り引いて読む必要があるかもしれません。
・国内資産ゼロが本当に妥当か注意
私たちは保険や公的年金を通じて、国内資産(日本株・日本債券)をたっぷり保有しているので、自分の資産運用ではこれらへの資産配分はゼロでよいというのがその根拠です。一理あると思っていた時期もありますが、個人的に今は、自分の裁量で自由に売買したり現金化できないものは、「保有しているとは言えない」と考えています。年金などは、もらえる金額どころか、もらい始める時期にいたるまで決定権を他人に握られています。
また、日本株ゼロと言っているそばから、日経平均はこの11~12月、世界の株式市場の中で独歩高更新中です。昨今の市場間の相関係数の高まりを過大評価していないか、高まったら動かない固定的なものだと誤認していないか、自問する必要はあるかもしれません。
<関連記事>
2009/11/23 相関係数の誤解
以上、本書の良いと思われるところと、注意が必要だと思われるポイントについて書きました。とはいえ、本書に出てくる提案は荒唐無稽なものではなく、ひとつのアグレッシブな提案として傾聴に値するものだと思います。この内容を投資家各人がしっかりと咀嚼し、自分の運用に採用できると考えた部分について活用していく、そんなスタンスがよいのではないかと思いました。
個人的な感想として、本書の良いところは以下のとおりです。
・日本の投信業界の問題点分析が非常に的確
日本の投信の販売手数料・信託報酬が右肩上がりであることや、それを助長する証券会社・銀行の営業方針について、鋭い指摘が行われています。また、海外の金融機関が驚くほど複雑な「毎月分配&通貨選択型投信」など複雑な商品がどんどん新規設定される理由を批判しています。
なお、これらの指摘は、昨年の金融審議会のモーニングスターの素晴らしいレポートに基づいており、モーニングスターらしい豊富なデータとともに解説されているので説得力があります。
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2011/12/23 【投信業界は注目すべし】 金融審議会のモーニングスター資料が素晴らしすぎる件
これらを知っているかいないかで、今後の資産運用に臨むスタンス、および、金融機関との付き合い方が大きく変わってくると思います。
・使える海外ETFリストとそのラインナップが掲載されている
たくさんある海外ETFの中でも、日本の投資家が活用するのに最適なものが厳選されています。選定基準も明確で、純資産残高・コストに加えて、「基準価額と市場価格の乖離」もしっかりフォローされています。
コア資産に活用すべき厳選12本のリストに加え、サテライト資産に活用できる8本のリストもあり、幅広いニーズに応えられるものになっています。
私も資産運用のメイン商品として海外ETFに投資していますが、上記のラインナップと選定基準は納得です。特に、「基準価額と市場価格の乖離」の適正範囲について、自分の拙い経験則で「プラスマイナス1%」の範囲内なら妥当という目安を設けていましたが、本書も同じ基準が提唱されていたので心強く思いました。
・モーニングスターのETF情報の活用法が具体的
モーニングスターの「海外ETF情報の集め方」や「個別銘柄情報ページのチェックポイント」は、写真入りで解説されており、あまり知られていない海外ETFの理解促進に貢献するものだと思います。米国のMorningstar情報についても言及されています。
実は、私もブログや連載コラム執筆のために、日米両方のモーニングスターのETF情報を活用しています。
・100%日本株「一本足打法」からの移行に配慮
日本の投信業界の問題点に例としてあげられたような投信を販売会社にすすめられて保有している投資家さんに対する配慮が行き届いています。一気に乗り換えるのに抵抗がある方のために、現実的な移行方法が提案されています。
一方、個人的な感想として、かなりアグレッシブな内容で、注意が必要と思われるポイントは以下のとおり。
・新興国株式・債券への過度な信認を感じる
本書では、新興国株式・債券の比率を非常に高めに提案しています。しかし、根拠となっているのは2030年など将来のGDP予測等、IMF(国際通貨基金)やゴールドマン・サックスの予測データですが、そもそもこれらの将来予測の精度は極めて低いのが実態です。IMFは毎年のように見通しを変更しますし、ゴールドマン・サックスにいたっては、わずか1年後の予測も当てられず、アクティブファンドで満足な実績があげられていません。
また、前著でもそうでしたが、提案されている各種ポートフォリオについて、期待リターンとリスク(標準偏差)が数字で明示されていません。新興国資産を増やせば、期待リターンが上がると同時に、リスクも上がりますので、その点がフォローされていないのは、補足が必要になる部分だと思います。
本書内の新興国への信認は、少し割り引いて読む必要があるかもしれません。
・国内資産ゼロが本当に妥当か注意
私たちは保険や公的年金を通じて、国内資産(日本株・日本債券)をたっぷり保有しているので、自分の資産運用ではこれらへの資産配分はゼロでよいというのがその根拠です。一理あると思っていた時期もありますが、個人的に今は、自分の裁量で自由に売買したり現金化できないものは、「保有しているとは言えない」と考えています。年金などは、もらえる金額どころか、もらい始める時期にいたるまで決定権を他人に握られています。
また、日本株ゼロと言っているそばから、日経平均はこの11~12月、世界の株式市場の中で独歩高更新中です。昨今の市場間の相関係数の高まりを過大評価していないか、高まったら動かない固定的なものだと誤認していないか、自問する必要はあるかもしれません。
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