「日本人は年金や保険を通じて既に国内資産にたくさん投資しているから自分の資産運用では海外資産のみでよい」って本当?
水瀬ケンイチ

投資本で「日本人は年金や保険を通じて既に国内資産にたくさん投資しているから、自分の資産運用では海外資産のみでよい」という主張を見るようになってきました。
「海外資産のみでよい」部分は論者によって「海外資産中心でよい」だったりしますが、いずれにしても「年金や保険の投資先と合算して自分のポートフォリオを組むべき」という主張です。
この主張は、数年前に北村慶氏の著書「大人の投資入門」(書評はこちら)で私は初めて知りましたが、その後もちょくちょく見かけていました。朝倉智也氏の著作「30代からはじめる投資信託選びでいちばん知りたいこと」(書評はこちら)、「低迷相場でも負けない資産運用の新セオリー」(書評はこちら)が同様の主張で、国内株式・国内債券0%のポートフォリオが推奨されていました。
最近では、岡村聡氏の著作「みんな不安に思っているのにだれも口にしない「人生とお金」の話」でも同様の主張がされていました。
当時は、年金や保険が実は株や債券で運用されているという事実が、今ほど個人投資家に知られていなかったこともあり、この主張はとても新鮮に見えたようです。投資ブロガーたちも賞賛していたように記憶しています。また、この主張は個人の資産運用に「全体最適」という視点を提供しており、ひとつの考え方としては面白いと私も思いました。
しかし、この主張は本当は間違っているのではないか?と最近は考えています。なぜか?
年金も保険も自分の意志で自由に引き出せないから
です。当たり前の話ですが、年金はその支給金額も支給時期も、私たちは自分で決めることができません。年金制度を決めるのは国です。
昔は、誰もが拠出した分以上の年金をもらえ、もらい方の違いこそあれ、年金も自分のお金という感覚が受け入れられたのかもしれません。しかし、ご存知の通り、年金は支給金額が減額され、支給開始時期も後ろ倒しに改悪する方向で変更され、私を含め払った分以下しかもらえない「払い損」世代が増加しています。それでも、私たちには為す術がありません。
これを、自分の資産と同列に扱って本当に良いのでしょうか?
保険にいたっては、さらに違和感があります。生命保険は自分が死んだ時に出るものですから、自分で自由にならないお金の筆頭です。また、医療保険やガン保険等も該当する病気にならなければ、そもそも何も出ません。火災保険や地震保険も同様です。
折しも昨年秋から現在にかけての日本株式の上昇率は、短期的には世界一となっています(珍しいこともあるものですね)。これにより、あなたが加入している年金や保険の運用資金も少なからず増えているはずですが、加入者であるあなたの受け取り額は1円でも増えているのでしょうか?
繰り返しになりますが、年金も保険も自分の意志で自由に引き出せません。ですから、たとえ年金や保険の投資先が、国内株式や国内債券という私たち個人も直接投資できる対象であっても、それらを同列に扱って合算してはいけないと思うのです。
では、かつて私が面白いと納得した「全体最適」という視点については、どう考えればよいのでしょうか?
これについても、今は自分なりの答えを持っています。「全体最適」という視点は、「個人の運用資産」という小さな小さな枠組みに当てはめるべき考え方ではなく、「日本人の個人金融資産」という大きな枠組みにこそ当てはまる考え方だったということです。
個人ひとりひとりにとっては、上記のように同列に扱えない年金や保険であっても、日本人の個人金融資産全体として見れば、その投資対象は合算してデータ化してもおかしくありません。ちょっと何を言っているのかわからない……というかたもいらっしゃると思いますので例を出します。
日本の個人金融資産は、1500兆円と言われています。その内訳は以下のようになっています。

(野村資本市場クォータリー 2012summer より引用)
この各種の個人金融資産(投資信託・株式・保険・年金など)も何かしらの資産クラスで運用されています。これを個人金融資産全体で合算すると、全体ではどの資産クラス(国内株式・外国株式・国内債券・外国債券・不動産・ゴールドなど)がどのくらいの比率で運用されているのか?
そういうスケールの大きな話であれば、「全体最適」で各資産クラスを合算してみても、意味があるデータだということです。逆に、ここではそのお金を誰が引き出せて、誰が引き出せないなどという小さな話は意味がありません。
というわけで、「日本人は年金や保険を通じて既に国内資産にたくさん投資しているから、自分の資産運用では海外資産のみでよい」という主張には、今は与しません。年金や保険の投資先が何であろうと関係なく、自分のポートフォリオは、保有資産の中で国内外の資産にしっかりと分散して組むのがよいと思います。
P.S
記事で例に出した著書を吊るし上げることが本記事の目的ではありません。本記事のテーマ以外の部分は素晴らしい良書ばかりです(だからこそ書評記事も書きました)。著者の皆さま、気分を害されましたらゴメンナサイ。
<追記> 2013/01/11 0:15
ツイッター等で、私の主張が「年金や保険自体を資産と考えない」という意見だと誤解されている方が散見されますが、違いますよ。「年金や保険の投資先(株や債券)と自分の運用資産の投資先(株や債券)を合算してポートフォリオを組むのは間違い」という意見です。
です。当たり前の話ですが、年金はその支給金額も支給時期も、私たちは自分で決めることができません。年金制度を決めるのは国です。
昔は、誰もが拠出した分以上の年金をもらえ、もらい方の違いこそあれ、年金も自分のお金という感覚が受け入れられたのかもしれません。しかし、ご存知の通り、年金は支給金額が減額され、支給開始時期も後ろ倒しに改悪する方向で変更され、私を含め払った分以下しかもらえない「払い損」世代が増加しています。それでも、私たちには為す術がありません。
これを、自分の資産と同列に扱って本当に良いのでしょうか?
保険にいたっては、さらに違和感があります。生命保険は自分が死んだ時に出るものですから、自分で自由にならないお金の筆頭です。また、医療保険やガン保険等も該当する病気にならなければ、そもそも何も出ません。火災保険や地震保険も同様です。
折しも昨年秋から現在にかけての日本株式の上昇率は、短期的には世界一となっています(珍しいこともあるものですね)。これにより、あなたが加入している年金や保険の運用資金も少なからず増えているはずですが、加入者であるあなたの受け取り額は1円でも増えているのでしょうか?
繰り返しになりますが、年金も保険も自分の意志で自由に引き出せません。ですから、たとえ年金や保険の投資先が、国内株式や国内債券という私たち個人も直接投資できる対象であっても、それらを同列に扱って合算してはいけないと思うのです。
では、かつて私が面白いと納得した「全体最適」という視点については、どう考えればよいのでしょうか?
これについても、今は自分なりの答えを持っています。「全体最適」という視点は、「個人の運用資産」という小さな小さな枠組みに当てはめるべき考え方ではなく、「日本人の個人金融資産」という大きな枠組みにこそ当てはまる考え方だったということです。
個人ひとりひとりにとっては、上記のように同列に扱えない年金や保険であっても、日本人の個人金融資産全体として見れば、その投資対象は合算してデータ化してもおかしくありません。ちょっと何を言っているのかわからない……というかたもいらっしゃると思いますので例を出します。
日本の個人金融資産は、1500兆円と言われています。その内訳は以下のようになっています。

(野村資本市場クォータリー 2012summer より引用)
この各種の個人金融資産(投資信託・株式・保険・年金など)も何かしらの資産クラスで運用されています。これを個人金融資産全体で合算すると、全体ではどの資産クラス(国内株式・外国株式・国内債券・外国債券・不動産・ゴールドなど)がどのくらいの比率で運用されているのか?
そういうスケールの大きな話であれば、「全体最適」で各資産クラスを合算してみても、意味があるデータだということです。逆に、ここではそのお金を誰が引き出せて、誰が引き出せないなどという小さな話は意味がありません。
というわけで、「日本人は年金や保険を通じて既に国内資産にたくさん投資しているから、自分の資産運用では海外資産のみでよい」という主張には、今は与しません。年金や保険の投資先が何であろうと関係なく、自分のポートフォリオは、保有資産の中で国内外の資産にしっかりと分散して組むのがよいと思います。
P.S
記事で例に出した著書を吊るし上げることが本記事の目的ではありません。本記事のテーマ以外の部分は素晴らしい良書ばかりです(だからこそ書評記事も書きました)。著者の皆さま、気分を害されましたらゴメンナサイ。
<追記> 2013/01/11 0:15
ツイッター等で、私の主張が「年金や保険自体を資産と考えない」という意見だと誤解されている方が散見されますが、違いますよ。「年金や保険の投資先(株や債券)と自分の運用資産の投資先(株や債券)を合算してポートフォリオを組むのは間違い」という意見です。
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