効率的市場仮説とインデックス投資の有用性(2013年版)
水瀬ケンイチ

今までインデックス投資の有用性について書かれた本をたくさん読んできましたが、その多くは、「現代ポートフォリオ理論」がその論拠でした。
現代ポートフォリオ理論は、その前提となる「効率的市場仮説」(市場価格はすべての投資家の知識と期待を反映しているという理論)さえ正しければ、最も効率的なポートフォリオは、一本道で同じ結論=世界市場ポートフォリオにたどり着くことが、数学的に証明されています。インデックス投資家の中にも信奉者が多い理論です(該当記事)。
実際の運用商品で言うと、たとえば海外ETFの「VT」に投資することがそれに近いと考えられます(本当はさらにリスクフリー資産と言われている債券を加えるのですが)。
効率的市場仮説は本当に成立しているのか
ただ、実際の市場は、効率的市場仮説が求める前提条件とはほど遠いと言わざるを得ません。初心者投資家から上級投資家まで投資家レベルもまちまちである上に、情報の伝わり方も段階的です。その証拠に、私自身は市場の状況を毎日毎時間チェックしていません。一日に一回程度、それも趣味で見ているだけでそれに基づいて売買しようと考えていません。これをもって、「効率的市場仮説は現実的でないので、インデックス投資などダメだ」という言説も、主にアクティブ投資をすすめる向きに散見されます。
仮に効率的市場仮説が成立していないのであれば、現代ポートフォリオ理論も砂上の楼閣であり、インデックス投資の有用性もなきがごとし脆弱なものなのでしょうか?
効率的市場仮説以外にもインデックス投資の有用性の論拠はこれだけある!
しかしながら、2013年1月現在、実際問題として私はそうは考えていません。なぜなら……インデックス投資の有用性は、(1)市場が効率的だからというだけはでなく、(2)コストの低さ、(3)リスク等のデータの把握しやすさ、(4)再現性の高さ、そして(5)市場動向予測の難しさなど、複数要因あると考えているからです。
(1) 市場の効率性(についてひと言)
インデックス投資のバイブルと言われている「ウォール街のランダム・ウォーカー」著者のバートン・マルキール氏は効率的市場仮説について、市場はバブルを繰り返しているがそれが市場が効率的ではないことを表しているのではなく、「真の価値はいつか実現する」と言っています。私の解釈では、バブルはあるが必ず弾けることが市場が効率的だからだと言っているように思います。これは、市場の効率化は瞬時に行なわれる程ではなくある程度の時間がかかり、つまり「レベル感」があるということだと思います。
ただし、この「レベル感」は数値化できず把握は困難、反論する有力な研究成果もあります。でも、インデックス投資の有用性の論拠は他にもあります。
(2) コストの低さ
たとえば、日本株式型のアクティブファンドの平均信託報酬は年率1.39%(2011年2月末現在、モーニングスターより)となっていますが、TOPIX連動型のインデックスファンドの平均信託報酬は年率0.56%(同)と半額以下のコストです(該当記事)。
コストは「確実な」パフォーマンス押し下げ要因(投資の世界において確実な事象というのはほとんどないのですが、これは確実)なのに対して、リターンは「運と努力の合わせ技」であり不確実です。
一般的に日本株式クラスの期待リターンは年率5%程度と言われているので、アクティブファンドが毎年このコストの差を超えて継続的にインデックスファンドのパフォーマンスを上回るのは簡単ではないことがわかると思います。
(3) リスク等のデータの把握しやすさ
「アセットアロケーション」が投資成果の8割を決定すると言われています(正確にはポートフォリオの時系列変動の7~8割。該当記事)。そこで、日本株式クラスに○○%、先進国株式に○○%、新興国株式に○○%といった具合に、アセットアロケーションを組むわけですが、その際に必要になるリスクのデータ(期待リターン・相関係数も含め)が、インデックスであれば年金基金等が策定したデータを利用もしくは参考にすることができます。
ところが、アクティブファンド(および個別株投資等のアクティブ運用)だと、リスクのデータ(期待リターン・相関係数も含め)を数字で把握することが困難です。できないことはないのでしょうがが、それこそプロの力(データ量や分析ツール)には個人投資家がかなわない部分です。この点は、世の投資本ではほとんど見たことがなく、実際に個人投資家として運用していて気づいた大きなポイントだと思います(該当記事)。
(4) 再現性の高さ
個別株投資をはじめ、世の中には「この方法で儲かる!」という知識が書かれた投資本が数多く出版されています。それぞれ、銘柄選定・タイミング等の方法について書かれており、読むと「なるほどそうやればいいのか!」と自分もできる気になってしまいます。
問題は、その方法が往々にして具体的ではないことです。株で億万長者になった人の本を読んで、同じように億万長者になれるのであれば、そこらじゅう億万長者だらけになってしまいます。実際はそうはなっていないところを見ると、その方法は再現性に難があるのでしょう(誤解なきよう申し上げておきますが、間違っているとは言っていません)。
平たく言えば、「何の銘柄と何の銘柄にそれぞれいくらつぎ込めば全体で○年後にいくらになることが期待される」という運用の全体像を具体的に示唆していないのが原因ではないかと推測しています。
その点、インデックス投資では、アセットアロケーションと具体的商品が明確に示唆されているので、運用の再現性という意味では高いものがあります(というか、運用者と全く同じ実績が実現可能です)。この点も世の投資本であまり指摘されることがありません。
(5) 市場動向予測の難しさ
これは言わずもがなです。言い尽くされてきたことですが、生き馬の目を射抜くウォール街のプロより、サルがダーツで決めた銘柄群の方が良いパフォーマンスだったという研究成果の例えを出すまでもなく、将来の相場予測はプロでも非常に難しいのが実態です(短期的な明日の相場予測はともかく、長期的かつ重要な、上げ相場と下げ相場の転換点を当てられないという点に関しては盤石な定評があります)。
投資本にはあまり書かれていないけれど、実際運用していて気づいたインデックス投資の有用性について、5つにまとめてみました。
ちょっと待てよ、よく考えるとこれは……
ただし!勘のよいかたならお気づきかもしれませんが、(1)は別として、(2)~(5)のポイントについては、アクティブファンド(および個別株投資等のアクティブ運用)でも必ずしも実現不可能ではないことに注意が必要です。つまり、アクティブファンドでも、コストが低く、リスク等のデータが完備され、目論見書どおりのパフォーマンスが再現され、ファンドマネージャーがバッチリ市場動向を予測できる、となればそれはインデックス投資だけの有用性ではなくなります。
個人投資家にとって資産運用の実態に即しているが重要
しかしながら、現状、これらのことはアクティブファンド(および個別株投資等のアクティブ運用)にはほとんど当てはまりません(ごく稀にスゴいアクティブファンドがあることは否定しませんが)。このことを頭に入れておくと、「効率的市場仮説は現実的でないので、インデックス投資はダメだ」という言説がいかに一面的で、個人投資家の資産運用の実態を反映していないかがわかると思います。
以上、長々と書いてきましたが、私が2013年1月現在、実際問題として私自身がインデックス投資の有用性の論拠と考えていることをまとめてみました。決して、効率的市場仮説だけがインデックス投資の有用性の論拠ではありません。また、裏を返せば、個人投資家にとっての「アクティブ運用の現在の課題」も示唆したつもりであります。
なお、言わずもがなですが、「インデックス投資をすれば必ず儲かる」ということを言っているわけではありません。すべての投資法にも言えることですが、予測が困難な将来に対して、少しでもリターンを期待できる方法は何かという命題に対して、現時点で得られる情報に基づき判断できる範囲で考えた結果に過ぎません。過剰期待にはお気をつけください。
これをお読みの皆さまの何かの参考になれば幸いです。
※投資判断は自己責任です。よろしくお願いします。
<ご参考>
インデックス投資の具体的方法にご興味があれば、以下のシリーズ記事もどうぞ。
→インデックス投資の具体的方法 8ステップ
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