伝統的インデックスの進化系「スマート・ベータ」との付き合い方
水瀬ケンイチ

私は基本的に、「ウォール街のランダム・ウォーカー」(バートン・マルキール著)で提案されている伝統的なインデックス投資を実践しています。
しかし、インデックスは時代とともに進化しています。今までウォッチしてきた中だけでも、「インテリジェント・インデックス」とか「ファンダメンタル・インデックス」など、いろいろ呼称はありましたが、時価総額比率の伝統的なインデックスを上回ることを目指した新たなインデックスが模索されてきました。
先日、日経新聞に掲載されていましたが、最近は、「スマート・ベータ」と呼ぶのがトレンドのようです。私たち個人投資家は、このスマート・ベータとどう付き合っていけばよいのでしょうか。
株価指数に新勢力続々 投資を変える次の主役は
JPX日経、スマートβ…
運用対象として、低リスクで安定した収益を得られる指数はないか。そんなニーズに対応し2000年代半ばから登場したのが、時価総額に縛られず、株価を動かす要因だけに着目して作られた指数だ。「スマートβ(ベータ)」という呼び方が広がり、日本でも「年金基金などの間で関心が高まっている」(三菱UFJ信託銀行の増田義之・インデックス戦略運用部長)。
(日経電子版 2014/02/01より)
「スマート・ベータ」ってなに?
スマートベータとは、「時価総額に応じて銘柄を組み入れる従来型の株価指数ではなく、財務指標や株価の変動率などに着目して銘柄を組み入れる株価指数」とのこと(日経電子版より)。野村総合研究所では、スマート・ベータのことを「戦略指数」として、以下のように分類しています。

(野村総合研究所 金融ITフォーカス「株式指数とアクティブ運用の進化」より)
大きく分けて、個別銘柄特性に注目した指数(ファンダメンタル・ウェイト指数、本源価値指数、クオリティ指数、後輩当銘柄指数、リスクウェイト指数)と、ポートフォリオのリスク特性をある状態に維持する指数(最小分散指数、リスク・パリティ指数、分散化比最大化指数)の2つに分類されています。
シンクタンクのレポート等で年金運用をウォッチしていると、最近、特にリーマン・ショック後は、最小分散やリスク・パリティなどリターンよりもリスクに着目した運用が注目されているようです。個人投資家でも、目端の利くかたは、同じように注目しているようです。
なぜスマート・ベータが注目されているのか
前述の日経電子版の記事では、日本株式のスマート・ベータの各インデックスについて、リターンとリスクをプロットしたグラフが掲載されています。
(日経電子版2014/02/01より)
これを見ると、TOPIXよりも低いリスクで、TOPIXと同等かそれ以上のリターンをたたき出しているスマート・ベータがあります。年金基金等が注目するのもわかります。
さて、このようにとても魅力的に見えるスマート・ベータですが、私たち個人投資家は、どのように考えればよいのでしょうか。現時点の私の個人的な考えをまとめておきます。
個人投資家はどう付き合えばよいのか
(1) スマート・ベータに実際に投資できる商品が、まだ日本にはほとんどないスマート・ベータがどんなによさそうでも、実際に投資できる商品がなければ話になりません。日本にはまだほとんどないので、付き合いようがないという身も蓋もない話。
あっても、一部、高配当銘柄指数に連動したETF等があるくらいでしたが、最近、ROE等を加味した新インデックス「JPX日経400」が立ち上がり、公的年金(GPIF)が 採用を検討しているようですので、今後、スマート・ベータ関連商品が盛り上がってくる可能性はあります。
私は数年前より、「バリュー・インデックスのインデックスファンドを出してほしい」と、ことあるごとに証券会社・運用会社に要望してきましたが、それすらまだ実現していない状態です(バリュー・インデックスも一種のスマート・ベータ)。ほしいと思っている個人投資家は、声をあげていった方がよいと思います。
現時点では、どうしても本格的にスマート・ベータに投資したければ、海外ETFでということになります。
(2) 米国の実績を見ると勝ったり負けたり
よいインデックスでも、運用が難しくて、ファンドがインデックスどおりの成績にならないことはよくあります。スマート・ベータに投資する商品の実績を見たいところです。
インデックス投資先進国の米国には、WisdomTree のETFをはじめとして、スマート・ベータに連動する商品が既にたくさんあります。その実績を確認できます。

(ETF Database 2014/01/15 Comparing Five Years of Alternative Weighting Methodologies より)
これを見ると、伝統的な S&P500 連動の「SPY」の年間リターンに対して、均等加重の「Guggenheim S&P Equal Weight ETF (RSP)」、配当加重の「WisdomTree Large Cap Dividend Fund (DLN)」、利益加重の「WisdomTree Earnings 500 Fund (EPS)」、収入加重の「RevenueShares Large Cap Fund (RWL)」の年間リターンがどうであったかが比較できます。
少なくともこの5年間では、どの銘柄も SPY に勝ったり負けたりで、常に上回っていたわけではないということが分かります。
(3) すべてスマート・ベータに乗り換えるのは得策でない
スマート・ベータは新しいインデックスなだけに、伝統的なインデックよりも常に優れているかは、疑ってかかった方がよいと思います。上記の日経電子版のリスク・リターンの図表にしても、直近12年間のデータに過ぎません。たまたま最近の情勢にフィットしているだけで、スマート・ベータの優位性が普遍的なものではない可能性もあります。
「株式投資の未来~永続する会社が本当の利益をもたらす」の著者ジェレミー・シーゲル氏は、早くからD-I-V戦略(高配当・国際化ポートフォリオ・バリュエーション)が伝統的なインデックスを上回る可能性を指摘していました。でも、ポートフォリオのすべてをD-I-V戦略にしろとは言っておらず、比率としては、伝統的インデックスと50:50で保有することを推奨していました。
そのジェレミー・シーゲル氏が参画して作った運用会社が、上記の ETF Database のグラフに出てくるスマート・ベータETFを運用する WisdomTree社です。
したがって、現在保有している伝統的なインデックスファンド・ETFを、すべてスマート・ベータ商品に乗り換えるというのは、得策ではないように思います。採用するとしても、慎重に動向を見極めながら資産の一部(最大で半分程度)にとどめておく方がよいかもしれません。
今後の課題
「スマート・ベータ」という呼び方が生まれるずっと昔から、伝統的な時価総額インデックスを上回る戦略の可能性は研究されてきました。そして、大量のデータと研究から、ただの偶然ではない確率で再現されているように見える現象があります。たとえば、「小型株効果」「低PER効果」などがそれにあたります。スマート・ベータにもこれに近い指数があります。そう考えると、スマート・ベータの各指数でも、研究により有効性がそれなりにサポートされているものと、そうでないものがありそうです。特に、新しい分野である「ポートフォリオのリスク特性をある状態に維持する指数」(最小分散指数、リスク・パリティ指数、分散化比最大化指数)については、今後の動向をよくウォッチしていきたいと思います。
<関連する過去記事>
2008/06/14 インテリジェント・インデックスについて聞いてきました@楽天証券
2012/07/19 インデックス投資の進化の方向性
2012/11/14 日経新聞にもリスク・コントロール型の分散投資が紹介されるこんな世の中じゃ
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