資産配分(アセットアロケーション)で勘違いしやすいポイント
水瀬ケンイチ

最近、新しいインデックス投資ブロガーさんたちが続々誕生しています。
なかには、資産配分(アセットアロケーション)について、ご自身が学びながら、かみくだいた言葉でわかりやすく情報発信してくれている方々もいます。とても素晴らしいことだと思います。
「ポートフォリオの期待リターンを中心に、上下にリスク(標準偏差)の2倍の価格変動を見込んでおき、その下限が自分のリスク許容度の範囲内に収まるようにしておく」
言うなれば「分散投資の要諦」です。ただ、わかりやすく説明しようとするなかで省略されやすく、勘違いしやすいポイントもあるかもしれないなと思いました。
分散投資の要諦に関わる部分なので、このあたりを勘違いしたまま投資を継続していると、後で「こんなはずじゃなかったのに……」と後悔することになりかねません。2008年のリーマン・ショックの時にも、勘違いしていた人たちが、「騙された!」と言っていたポイントでもあります。
過去の経験を思い出しながら、以下のとおり列挙してみます。
いろいろな本屋ブログを見ながら、期待リターンとリスク(標準偏差)と相関係数から計算して、たとえば、自分のポートフォリオが、年率で +25% から -15% の範囲内に 95% の確率でおさまると計算したとします。ここまでは、ぜんぜん間違っていません。
「そっか。じゃあ最悪 -15% を覚悟すれば投資してオッケーなのね!」
となるわけですが、ここにひとつ落とし穴がありそうです。それは、上記の期待リターンもリスクも、すべて「年率」の数字だということです。
最大損失の覚悟に使えそうなのは、あくまでも「1年後」に -15% ということだけです。2年後には、そこからまた更に下がるかもしれませんし、10年後は……言うまでもありません。
いろいろな人とお話をしていて感じるのは、期待リターンは年率だということを理解している人でも、最大損失の目安はなぜか、20~30年といった全投資期間中にあてはまる(=今後ずっと -15% を下回ることはない)と勘違いしてしまうことがあるようです。
1年後の数字が、全投資期間すべてにあてはまると勘違いしないようにしたいです。
標準偏差の2倍を超える可能性はゼロではないです。95% の確率でおさまるという話は、裏を返せば 5% の確率でハミ出るということです。決して、絶対これ以上下がらないという絶対防衛線ではありません。
そして、金融の世界でよく言われる、「標準偏差の2倍を見ておけばよい」というのは、ひとつの「目安」です。
心配症のかたもいらっしゃるでしょうから、標準偏差の3倍とか5倍の最大損失を見込んでもよいと思います。ただ、起きるか起きないかわからない事態にどこまで備えるかは、ひとつの「割り切り」なのだと思います。
無限のリソース(お金や時間)があればいくらでも安全性を高められるかもしれませんが、地震や台風への備えと同様に、私たちは限られたリソースのなかで備える必要があります。
だから、そこそこ合理的な水準で、「まあこのへんで割り切るか」となるわけです。その目安が、金融の世界では標準偏差の2倍という位置づけなのだと思います。
リスク(標準偏差)の2倍を見込んでおけば絶対安全だと勘違いしないようにしたいです。
上記(1)(2)の2つの話をすると、「たった1年後の話で目安に過ぎないなら、そんな計算ほとんど意味ないじゃん」と言われることがあります。
わかります。せっかく、今まで見たことも聞いたこともない確率・統計の言葉や計算式を勉強して、ようやく資産配分(アセットアロケーション)を決めたのに、結局、目安程度の信頼性しかないのかよ!とガックリくるのは。
では、これらにまったく意味がないのかというとそうではないと思います。不確実な相場にわざわざ丸腰でのぞむ必要はありません。使えそうなものは使った方がいいです。
世の中では、投資以外のことにおいても、将来の不確実性に対して、確率・統計的手法で定量的に捉えて、取り扱うということは実際に行われています。
例えば、天気予報は、不確実な自然現象を確率・統計的手法で予測しています。もちろん当たらない場合もありますが、概ね当たるのはご存知のとおりでしょう。
健康診断は、今後その人が病気になるかどうかという不確実な事象に対して確率・統計的手法を使って、どの数値がどれだけ上がると(下がると)病気になりやすいのかという健康管理に役立てています。
工場では、今後作る製品からどのくらい不良品が出るのかという不確実な事象に対して確率・統計的手法を使って、歩留まり率を計算し、不良品が返品されても損しないような価格・数量であらかじめ製造しています。
学校の勉強では、自分の実力という目に見えない事象に対して確率・統計的手法を使って、偏差値として周りと比較可能な数字にして、学習の進捗や志望校の選択等に役立てています。
いずれも、不確実な事象に対して、確率・統計的手法は世の中のいろいろなところで実際に使われ、役に立っています。外れることもある目安だからといって、使わない手はないと思います。
イメージ的には、「当たるか当たらないかは断言できないけど、使った方がなにかと便利なもの」という感じでしょうか。それを投資にあてはめたというわけです。やっぱり意味あるんですよ~。
以上3点が、ポジティブ・ネガティブの両面から、勘違いしやすいポイント(自分もかつて勘違いしていたことがあるポイント含む)なのではないかと思いました。何かのお役に立てば幸いです。長文失礼しました。
<ご参考>
「勘違いも何も、そもそも資産配分の決め方がわからん」という方は、以下の記事(とくに第4回)をご参照ください。
2012/08/29 インデックス投資の具体的方法 8ステップ
P.S
本ブログ記事は、市場動向が正規分布であることを前提としており、その点に関してはリーマン・ショック後に騒がれた、ファットテールの存在とかベキ分布ではないかという話もあるのですが、そこはまた詳細にわたるのでまた別の機会に。
過去の経験を思い出しながら、以下のとおり列挙してみます。
(1) 1年後の話を全投資期間の話と勘違いしてしまう
いろいろな本屋ブログを見ながら、期待リターンとリスク(標準偏差)と相関係数から計算して、たとえば、自分のポートフォリオが、年率で +25% から -15% の範囲内に 95% の確率でおさまると計算したとします。ここまでは、ぜんぜん間違っていません。
「そっか。じゃあ最悪 -15% を覚悟すれば投資してオッケーなのね!」
となるわけですが、ここにひとつ落とし穴がありそうです。それは、上記の期待リターンもリスクも、すべて「年率」の数字だということです。
最大損失の覚悟に使えそうなのは、あくまでも「1年後」に -15% ということだけです。2年後には、そこからまた更に下がるかもしれませんし、10年後は……言うまでもありません。
いろいろな人とお話をしていて感じるのは、期待リターンは年率だということを理解している人でも、最大損失の目安はなぜか、20~30年といった全投資期間中にあてはまる(=今後ずっと -15% を下回ることはない)と勘違いしてしまうことがあるようです。
1年後の数字が、全投資期間すべてにあてはまると勘違いしないようにしたいです。
(2) リスク(標準偏差)の2倍を見込んでおけば絶対安全と思ってしまう
標準偏差の2倍を超える可能性はゼロではないです。95% の確率でおさまるという話は、裏を返せば 5% の確率でハミ出るということです。決して、絶対これ以上下がらないという絶対防衛線ではありません。
そして、金融の世界でよく言われる、「標準偏差の2倍を見ておけばよい」というのは、ひとつの「目安」です。
心配症のかたもいらっしゃるでしょうから、標準偏差の3倍とか5倍の最大損失を見込んでもよいと思います。ただ、起きるか起きないかわからない事態にどこまで備えるかは、ひとつの「割り切り」なのだと思います。
無限のリソース(お金や時間)があればいくらでも安全性を高められるかもしれませんが、地震や台風への備えと同様に、私たちは限られたリソースのなかで備える必要があります。
だから、そこそこ合理的な水準で、「まあこのへんで割り切るか」となるわけです。その目安が、金融の世界では標準偏差の2倍という位置づけなのだと思います。
リスク(標準偏差)の2倍を見込んでおけば絶対安全だと勘違いしないようにしたいです。
(3) たった「1年後」の話で「目安」に過ぎないなら、意味ないじゃんと決めつけてしまう
上記(1)(2)の2つの話をすると、「たった1年後の話で目安に過ぎないなら、そんな計算ほとんど意味ないじゃん」と言われることがあります。
わかります。せっかく、今まで見たことも聞いたこともない確率・統計の言葉や計算式を勉強して、ようやく資産配分(アセットアロケーション)を決めたのに、結局、目安程度の信頼性しかないのかよ!とガックリくるのは。
では、これらにまったく意味がないのかというとそうではないと思います。不確実な相場にわざわざ丸腰でのぞむ必要はありません。使えそうなものは使った方がいいです。
世の中では、投資以外のことにおいても、将来の不確実性に対して、確率・統計的手法で定量的に捉えて、取り扱うということは実際に行われています。
例えば、天気予報は、不確実な自然現象を確率・統計的手法で予測しています。もちろん当たらない場合もありますが、概ね当たるのはご存知のとおりでしょう。
健康診断は、今後その人が病気になるかどうかという不確実な事象に対して確率・統計的手法を使って、どの数値がどれだけ上がると(下がると)病気になりやすいのかという健康管理に役立てています。
工場では、今後作る製品からどのくらい不良品が出るのかという不確実な事象に対して確率・統計的手法を使って、歩留まり率を計算し、不良品が返品されても損しないような価格・数量であらかじめ製造しています。
学校の勉強では、自分の実力という目に見えない事象に対して確率・統計的手法を使って、偏差値として周りと比較可能な数字にして、学習の進捗や志望校の選択等に役立てています。
いずれも、不確実な事象に対して、確率・統計的手法は世の中のいろいろなところで実際に使われ、役に立っています。外れることもある目安だからといって、使わない手はないと思います。
イメージ的には、「当たるか当たらないかは断言できないけど、使った方がなにかと便利なもの」という感じでしょうか。それを投資にあてはめたというわけです。やっぱり意味あるんですよ~。
以上3点が、ポジティブ・ネガティブの両面から、勘違いしやすいポイント(自分もかつて勘違いしていたことがあるポイント含む)なのではないかと思いました。何かのお役に立てば幸いです。長文失礼しました。
<ご参考>
「勘違いも何も、そもそも資産配分の決め方がわからん」という方は、以下の記事(とくに第4回)をご参照ください。
2012/08/29 インデックス投資の具体的方法 8ステップ
P.S
本ブログ記事は、市場動向が正規分布であることを前提としており、その点に関してはリーマン・ショック後に騒がれた、ファットテールの存在とかベキ分布ではないかという話もあるのですが、そこはまた詳細にわたるのでまた別の機会に。
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