公的年金の2016年10-12月期は過去最大の運用益。でもマスコミ各社は……
水瀬ケンイチ

公的年金資金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が、2016年10-12月期の運用実績を発表しました。運用益は10兆4973億円、運用利回りがプラス7.98%、累積収益は53兆617億円と、過去最大の運用益が出ています。
今までブログで取り上げてきたように、マスコミ各社は年金運用がマイナスになった時は、その損失金額を取り上げて鬼の首を取ったように大騒ぎする一方、プラスの時には報道しない(あるいはごく小さな扱い)という傾向がありました。
過去最大の運用益だった2016年10-12月期の運用実績、マスコミ各社の反応はどうだったのでしょうか? ネット報道内容をチェックしたいと思います。
報道内容のチェック項目は過去のブログ記事と同様、(1)損益金額、(2)運用利回り、(3)運用開始からの累計実績、とします。
※マスコミ各社のニュースサイトより梅屋敷商店街のランダム・ウォーカー調べ(2017年3月5日11時現在)
まず、報道自体がなかった日本テレビは論外として、その他のマスメディアでは、「過去最大の運用益」というトピックがあったからか、大なり小なりの報道はありました。
しかし、読売新聞、時事通信、TBS、テレビ東京は、記事に「損益金額」しか書かれておらず、「運用利回り」が書かれていません。これでは読者が運用実績を正しく評価することができません。
これは、過去に運用利回りがわずか数%のマイナスであったにもかかわらず、「年金が○兆円もの損失!」と金額の大きさのみを前面に出して騒ぎ立てた時と同じ構図です。公的年金は運用総額が約145兆円と巨額なので、損益の金額だけを示すのはミスリードを誘います。
ロイターと朝日新聞は、運用利回りは書かれていないものの、損益金額と運用総額が併記してありました。読者が自分で割り算をすれば、運用利回りを計算できなくもありませんが、不親切な報道です。
特に、ロイターの記事はタイトルが「GPIF、10─12月期に国内債券1兆2700億円減 比率は初の中心値割れ」と、GPIFのポートフォリオを構成する資産クラスのひとつにすぎない国内債券クラスのみの損益金額をわざわざ抜き出して、「1兆2700億円減」とマイナスのタイトル付けをしており、公的年金の運用実績全体を表していません。
これは、報道として明らかに不自然であり、ロイターもしくは記者の公的年金に対するなんらかの意図を感じざるを得ませんでした。
そんななか、ブルームバーグ、NHK、フジテレビは、損益金額・運用利回り・累計実績の3点セットがすべて示されていました。
いくら儲かった(損した)のか?それは全体に対してどの程度なのか?過去からの分を全部ひっくるめるとどうなのか?という運用実績の全体像が評価できる、読者にとってわかりやすい報道になっていました。
全体を通しての所感です。過去最大の運用益だったという公的年金運用実績でしたが、報道自体は概ねされていました。ただし、その内容は「10兆円の黒字!」「過去最大の運用益!」といった、損益金額だけに着目した報道が上記のうち半数近くを占めていました。
前述のとおり、公的年金は運用総額が約145兆円と巨額なので、損益の金額だけを示すのはミスリードを誘います。
公的年金に関しては、人口増加を前提とした制度設計であることや、未納問題、マクロスライド方式の未実施等、多くの問題を抱えていることは事実です。しかし一方で、資産運用については真面目に行われており、情報公開も進んでいるというのが、運用をウォッチしている私の認識です。
年金は国民の最大級の関心事です。マスコミ各社は煽る方向に張り切るのではなく、良いことも悪いことも含め、きちんと「事実」を伝えてほしいと思います。
P.S
本文にも書いたとおり、ネットで公開されている範囲での情報収集なので、「ニュースサイトには掲載していないが、新聞本紙では掲載している」「○時○分のTVニュースで触れた」等の事情はあるかもしれません。だからといってネットには非掲載でよいということにはなりませんが。
公的年金の運用実績(2016年度3Q)に対するマスコミ各社のネット報道状況
損益金額 | 運用利回り | 累計実績 | 備考 | |
日本経済新聞 | ○ | ○ | × | |
ロイター | ○ | △ | × | 運用利回り表記はないが、運用総額表記あり(読者が自分で計算しないと評価不能) |
ブルームバーグ | ○ | ○ | ○ | |
朝日新聞 | ○ | △ | ○ | 運用利回り表記はないが、運用総額表記あり(読者が自分で計算しないと評価不能) |
毎日新聞 | ○ | ○ | × | |
読売新聞 | ○ | × | × | 運用利回りも運用総額も表記なし(読者は評価不能) |
産経新聞 | ○ | ○ | × | |
共同通信 | ○ | ○ | × | |
時事通信 | ○ | × | × | 運用利回りも運用総額も表記なし(読者は評価不能) |
NHK | ○ | ○ | ○ | |
日本テレビ | × | × | × | 報道なし(論外) |
TBS | ○ | × | × | 運用利回りも運用総額も表記なし(読者は評価不能) |
フジテレビ | ○ | ○ | ○ | |
テレビ朝日 | ○ | ○ | × | |
テレビ東京 | ○ | × | × | 運用利回りも運用総額も表記なし(読者は評価不能) |
※マスコミ各社のニュースサイトより梅屋敷商店街のランダム・ウォーカー調べ(2017年3月5日11時現在)
まず、報道自体がなかった日本テレビは論外として、その他のマスメディアでは、「過去最大の運用益」というトピックがあったからか、大なり小なりの報道はありました。
しかし、読売新聞、時事通信、TBS、テレビ東京は、記事に「損益金額」しか書かれておらず、「運用利回り」が書かれていません。これでは読者が運用実績を正しく評価することができません。
これは、過去に運用利回りがわずか数%のマイナスであったにもかかわらず、「年金が○兆円もの損失!」と金額の大きさのみを前面に出して騒ぎ立てた時と同じ構図です。公的年金は運用総額が約145兆円と巨額なので、損益の金額だけを示すのはミスリードを誘います。
ロイターと朝日新聞は、運用利回りは書かれていないものの、損益金額と運用総額が併記してありました。読者が自分で割り算をすれば、運用利回りを計算できなくもありませんが、不親切な報道です。
特に、ロイターの記事はタイトルが「GPIF、10─12月期に国内債券1兆2700億円減 比率は初の中心値割れ」と、GPIFのポートフォリオを構成する資産クラスのひとつにすぎない国内債券クラスのみの損益金額をわざわざ抜き出して、「1兆2700億円減」とマイナスのタイトル付けをしており、公的年金の運用実績全体を表していません。
これは、報道として明らかに不自然であり、ロイターもしくは記者の公的年金に対するなんらかの意図を感じざるを得ませんでした。
そんななか、ブルームバーグ、NHK、フジテレビは、損益金額・運用利回り・累計実績の3点セットがすべて示されていました。
いくら儲かった(損した)のか?それは全体に対してどの程度なのか?過去からの分を全部ひっくるめるとどうなのか?という運用実績の全体像が評価できる、読者にとってわかりやすい報道になっていました。
全体を通しての所感です。過去最大の運用益だったという公的年金運用実績でしたが、報道自体は概ねされていました。ただし、その内容は「10兆円の黒字!」「過去最大の運用益!」といった、損益金額だけに着目した報道が上記のうち半数近くを占めていました。
前述のとおり、公的年金は運用総額が約145兆円と巨額なので、損益の金額だけを示すのはミスリードを誘います。
公的年金に関しては、人口増加を前提とした制度設計であることや、未納問題、マクロスライド方式の未実施等、多くの問題を抱えていることは事実です。しかし一方で、資産運用については真面目に行われており、情報公開も進んでいるというのが、運用をウォッチしている私の認識です。
年金は国民の最大級の関心事です。マスコミ各社は煽る方向に張り切るのではなく、良いことも悪いことも含め、きちんと「事実」を伝えてほしいと思います。
P.S
本文にも書いたとおり、ネットで公開されている範囲での情報収集なので、「ニュースサイトには掲載していないが、新聞本紙では掲載している」「○時○分のTVニュースで触れた」等の事情はあるかもしれません。だからといってネットには非掲載でよいということにはなりませんが。
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