存在しないことにされる買い手たち
水瀬ケンイチ

今日は日経平均が1,000円以上下落したというニュースが流れてきました。
下落の水準自体は「ああ、そうですか」という感想しかないのですが、気になるのはその報道内容です。
「買い手不在」だそうです。日経新聞だけでなく、ツイッター等のSNSでも「買い手不在」という言葉がたくさん流れてきます。
かねてより不思議に思っていましたが、下げ相場での「買い手不在」という言葉は珍妙です。
相場が大きく下落して、全体的に悲観的な状態を表しているのだと推測しますが、なんとなく気持ちはわかるものの、よく考えるとおかしな言葉です。なぜなら、株価がついているということは、その価格で売りたい人だけでなく、買いたい人が「必ず」存在しているという証拠でもあるからです。
どういうことか?
言うまでもなく、株式市場というのは株式を買いたい人と売りたい人をマッチングする場所です。
もし、本当に買い手が一人もおらず、売り手しかいないのなら、「寄り付かず」という状態となり、株価がつくことはありません。どんなに値下がりしていようが、株価がついている以上、その価格で売りたい人だけでなく、買いたいという人が必ずセットで存在します。
だから、「日経平均が○○○円値下がりした」というニュースで株価がついていることを報道する一方で、「買い手不在」と報道するのは、本来、矛盾しているわけです。
それを念頭に置きながら、日経電子版で「買い手不在」と入力して記事検索すると、こんな調子です。
「季節的な買い手不在」
→そんな季節は見たことがないが、もし株価がつかない季節とやらがあるなら、それは春?夏?秋?冬?
「買い手不在の中、小口の売り」
→売れるのは買い手がいるからでしょう
「薄商いのなか再び浮かび上がった買い手不在」
→薄くても商いがあるなら買い手は存在。浮かび上がったのは記者のボキャブラリー不足?
「買い手不在で日経平均が2万2764円」
→平均株価に思いきり株価がついているのは、無数の銘柄に無数の買い手が存在する何よりの証拠
矛盾ワードが続々です。買い手、存在しないことにされ過ぎ。
笑っちゃってください。そして、下落した株価を見て大騒ぎするのではなく、同じ株価を見て「買ってもいいな」と判断して買いを入れている、どこかの冷静な投資家の存在を感じてください。
株価が下がれば、見逃せない投資妙味が出てきます。売りと買いの思惑が激しく交錯する市場の懐は深く、どんな暴落相場でも買い手は必ず現れます。
微力ながら私も買っています。もう15年以上、毎月淡々と積み立て投資で買い続けています。勝手に「買い手不在」にしないでほしいものです。
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