「人生100年時代の年金戦略」(田村正之著)は公的年金を徹底的に調べ上げて至れり尽くせりで解説してくれる「ザ・年金本」
水瀬ケンイチ

「人生100年時代の年金戦略」(田村正之著)を読みました。
本書は日本経済新聞社編集委員兼紙面解説委員で、ファイナンシャル・プランナー(CFP®)でもある田村正之氏が、公的年金を徹底的に調べ上げて至れり尽くせりで解説してくれる「ザ・年金本」でした。私自身、初めて知ることがたくさんあり、手元に置いておきたい一冊となりました。
内容(「BOOK」データベースより)
年金額は決まったものではなく自分の選択や働き方しだいでかなり大きく変わります。障害年金、遺族年金などの仕組みを知ってフル活用しないともったいないです。実質的な金額は所得代替率の低下ほどは大きく減らないし、加入者が予想を上回っていることなどで年金財政は一般的なイメージより好転しつつあります。個人型・企業型DC、イデコなどを総合的に組み合わせ、長く豊かに暮らしましょう!
目次
序章 「年金をいくらもらえるか」は自分の選択次第(年金不安をあおる営業が増加/人生100年時代の最大の支えは「終身」でもらえる公的年金 ほか)
第1章 年金は人生のリスクに備えるお得な総合保険(30分でわかる公的年金/誤解だらけの年金財政)
第2章 公的年金、フル活用のための実践術(繰り下げ受給は老後の大きな安心材料/70歳まで厚生年金加入で働くと年金は大幅増 ほか)
第3章 運用で堅実に増やすー個人型・企業型DC徹底活用(「長期・分散・低コスト」+「資産の置き場」が大切/現役時代に税金負担を減らしながら老後資金を作れる「イデコ」 ほか)
「人生100年時代の年金戦略」 (田村正之著) Amazon の内容紹介より
第1章~2章で、「保険」である公的年金の基本的な制度から、「年金は将来出なくなる」という世間の誤解、マクロ経済スライドによる制度の永続性、繰り上げ受給・繰り下げ受給のメリット・デメリット、パート主婦も「130万円の壁」を超えたほうが良い理由、離婚年金分割、遺族年金、障害年金など、あまり知られていない制度も含めて、網羅的に解説されています。
私はサラリーマンで、入社以来ずっと3階建ての年金(国民年金、厚生年金、厚生年金基金)の保険料を払ってきており、退職していく先輩たちももちろん、3階建ての年金をベースに暮らしているのを見てきています。
正直に言って、個人事業主や自営業の年金について、国民年金以外はよく知りませんでした。本書によって、国民年金だけでなく付加年金、国民年金基金、小規模企業共済の使い方を、実額とともに知ることができました。
私が個人的に長年目指している早期リタイアをすると、年金が3階建てから1階建てに減ることになりますが、そのなかでも年金増の選択肢を知ることができて、ひとつの安心材料になりました。
同時に、2階部分の厚生年金の威力の大きさも再認識しました。まあ、厚生年金は保険料を自分と会社の2馬力で払っているので、そりゃあ強力なわけです。年金財政が悪化して、多少所得代替率が下がっても、この2馬力は強力です。
本書では、60歳以降も働くことはもちろん、70歳まで厚生年金加入で働ける場所を選ぶべきだとしているのもわかります。長年目指してきた私の早期リタイア観が揺らぎそうになりました。
第3章では、確定拠出年金(個人型=iDeCo・企業型)、少額投資非課税制度(一般NISA・つみたてNISAなど)を活用した年金を補完する方法も、制度の組み合わせ方を中心に紹介されています。
運用商品のインデックスファンドや資産配分(アセットアロケーション)などは、当ブログをお読みの皆さまにはおなじみの知識かもしれませんが、たとえば確定拠出年金の受給時において、60~64歳までの年金の「空白の5年間」を活用することで税金が少なくて済む受け取り方など、「なるほど」と思われる箇所がいくつかあるはずです。
いずれも、公的年金をもらう消費者の立場で、表から裏まで、具体的かつ実践的に手取り足取り教えてくれています。良心的です。年金のことはこれ1冊で十二分にわかるという「ザ・年金本」として、これからも私の手元に置いておこうと思います。
ただ、一点だけ注意点があるとするなら、本書は年金本のわりに(私をふくめ)中高年の老眼諸氏にとっては、文字が小さすぎるかもしれません。そういうかたは、紙の本ではなく、文字の大きさや行間を調整できる kindle など電子書籍版の方が、かえって向いていると思います。
* * *
以下、完全に蛇足です。
ここからは私の推測に過ぎません。至れり尽くせりな内容なわけですが、本書はある意味で、田村氏の「懺悔の書」なのではないかと感じました。
公的年金について、今まで何十年も(日本経済新聞社も含めた)マスコミにより、主にネガティブな方向で報道されてきました。たとえば、公的年金流用問題、消えた年金問題等の不祥事です。公的年金の積立金を資産運用するGPIFについても、運用実績がプラスの年の扱いはごく小さく、マイナスの年は鬼の首を取ったように「公的年金が○○兆円の損失!」と叩きます。(2018年度第4四半期も大騒ぎの予感…)
もちろん、不祥事はよくないことであり、運用もできればプラスである方が好ましいものではあります。
しかし、実際には本書の中にもふれられているとおり、年金財政全体に与える影響はごく軽微であったにもかかわらず、マスコミが全体像に焦点を当てることは、ほとんどなかったのではないかと思われます。全体像をふまえない局地戦で、公的年金をいたずらに叩き過ぎてしまったこと。それにより、日本国民の年金財政全体に対する不信感を、無用に増長させてしまったこと。
それに便乗した民間の金融機関が、「年金は将来出なくなる」などと不安を煽るセールストークで、手数料が高い個人年金や外貨建て保険を売りつける土壌を作ってしまったこと。公的年金を無用に疑って自らの意思で年金保険料を未納する人まで出てきてしまったこと。それにより、老後の備えが極めて脆弱になってしまった人たちが少なからずいること。
これらのことは、誰か一人だけの責任ではないのはもちろんですが、新聞社が加担してしまった役割は決して小さくはなかったはずです。田村氏はそこを懺悔する気持ちをもって、悪いイメージが付いて誤解されている公的年金について、その真の価値を消費者が知ってフル活用することが、最大の老後対策になることを消費者に伝えたかったのではないか。
本書の至れり尽くせり感から、そのように思えてなりません。深読みしすぎ?かもしれませんが、そんな妄想を思い起こさせるくらい良心的な内容だったということです。
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