投信を買う金融機関選びに、格付会社による投信販売会社の格付けは役に立つか?
水瀬ケンイチ

NIKKEI STYLE に「投信購入、顧客本位の金融機関選びは格付けを参考に」という記事が掲載されています。サブタイトルには「R&Iが5段階で評価、夏ごろまで40~50社」とあります。
さて、投信を買う金融機関選びに、格付会社による投信販売会社の格付けは役に立つのでしょうか。
投信購入、顧客本位の金融機関選びは格付けを参考に|マネー研究所|NIKKEI STYLE
投資信託に関心がありますが、自分にどんな投信が向いているのか分かりません。専門知識がない投資初心者でも安心して相談できる金融機関を選ぶ方法を教えてください。◇ ◇ ◇お金の運用をプロにまかせる投信は「人生100年時代」の個人マネーの有力な受…
個人的な見解かつ関係者の方々にとって不愉快な意見になることを予めお詫びしておきますが、個人的には「格付けが役に立つかどうかに関係なく、自分で選んだ投信を買えるネット証券で自分で買うのがベター」と考えています。
さらには、大半の銀行や対面型証券は、投資初心者が投信で資産運用するのに不適切であり、最初から検討の候補に上げる必要がないため、「いちいち格付けする意味自体がほとんどない」と考えています。
どの販売会社で買うかはそれほど重要ではない
どの投信に投資するかはそこそこ重要ですが、どの販売会社で買うかはそれほど重要ではありません。
上記の NIKKEI STYLE の記事にもあるとおり、銀行や対面型証券といった投信販売会社の人間が、余計なセールスや手数料稼ぎの回転売買をすすめてくるリスク(危険)がある以上、人間が向こうから話しかけてくることがないネット証券がベターであるという消極的選択に自然と行き着きます。
「投信を自分で選べないから販売会社のアドバイスが必要なんじゃないか」という反論をしたくなる投資初心者の方がいらっしゃるかもしれません。
でも、そういう方は、投信ではなく、預貯金かリスクが低い個人向け国債にしておくことをおすすめします。これは上から目線の嫌味や皮肉ではありません。投資の基礎知識がないまま言われたとおりに投資を始めてしまい、あとで短期的にでも損失が出た時に、「こんなはずじゃなかった」と他人を責めることになるくらいなら、最初から元本保証型の金融商品だけにしておくことが、本当に本人のためであると思っています。
投資に不慣れだったり、正常な判断ができない状態の高齢者に、高コストで複雑な投信(たとえば、毎月分配型&通貨選択型&カバードコール戦略型の3階建て投信など。4階建ても)を売りつけるだけでなく、新商品が出るたびにそれを買い直させて販売手数料稼ぎをする金融機関が社会問題になりました。
親切なはずの銀行マン(証券マン)が、一歩間違えば犯罪まがいの手数料荒稼ぎにまい進していたのがこの10年の投信業界の実態です。
近年、金融庁が、少額投資非課税制度「つみたてNISA」の対象商品条件として、毎月分配型ではないことや信託報酬が一定以下であることなどの厳しい条件を課していたり、金融機関にフィデューシャリー・デューティー(受託者の忠実義務)宣言をすることを促進したりすることから、金融当局が業を煮やした現実が垣間見えます。
実は販売会社選びは、投信での投資検討のほぼ最終行程
投信での投資をするには、特に、長期で投資を継続するには、まず自分のリスク許容度(最終的に自分にしかわからないものです)を確認して、効率的な資産配分を決め、各資産クラスで最も低コストな投信を選ぶ。そのあと初めて、お目当ての投信が買える販売会社をどこにするか考える。といった手順がどうしても必要になります。
<ご参考>
インデックス投資の具体的方法 8ステップ - 梅屋敷商店街のランダム・ウォーカー(インデックス投資実践記)
販売会社をどこにするかは、投信での投資を検討するほぼ最終行程です。
そこに行き着くまでのリスク許容度確認、資産配分の決定、商品選択がどうやっていいのかさっぱりわからないという人は、まず投資の本を一冊読むところからはじめるべきで、格付会社による投信販売会社の格付けなんぞを参照している場合ではないと思います。
物ごとは重要性が高い順番に決めていくのが効果的
投資に限らず、物ごとは重要性が高い順番に決めていくのが、効果的な進め方です。いきなり枝葉末節から入っても効果が低いでしょう。
たとえ話をします。あなたは、これから一世一代の決心で、持ち家を買おうとしているとします。まず、なにから考えはじめるでしょうか。
まず、気候や実家や勤務先などの諸条件から、どの土地に住むのかを決めて、一戸建てにするかマンションにするかを決めて、間取りを決めて、ようやくどの不動産会社にするかを決めると思います。セキスイハイムにするか大和ハウスにするか長谷工コーポレーションにするかを選ぶのは最後の最後でしょう。
同じように、投信での投資において、販売会社選びは最後の最後です。
まずは重要性が高いこと(リスク許容度確認、資産配分の決定、商品選択)を決めて、あとはせいぜい投信のラインナップが最大級のネット証券がひとつあれば、他は検討する必要などない程度のものです。
重要性、必要性の観点から、格付会社による投信販売会社の格付けなど堂々と見送ってしまって構わないと思います。
かつて格付会社が犯したあやまちは今だに……
そもそも、販売会社を偉そうに格付けするという格付会社も、すねに傷ある身です。
つい10年前、米国で格付会社は、クレジットカードで延滞を繰り返すなど信用力の低い個人や低所得者層を対象にした高金利の住宅ローン「サブプライムローン」を証券化した RMBS に、AAA(トリプルエー)などの高格付けを付けていました。その RMBS を裏付けにした債務担保証券(CDO)が組成され、世界中の金融機関やヘッジファンドが買い漁っていました。
その後、RMBS や CDO の暴落に端を発して、2007年サブプライム・ショック、2008年にはリーマン・ショックという未曾有の金融危機が起きました。
RBMS や CDO を買いまくって破綻した金融機関やヘッジファンドも度し難いのですが、格付会社の高格付けがそれに一役買っていたことから、格付会社の評判は地に落ちました。サブプラム・ショック、リーマン・ショック後、しばらくは誰も格付会社の格付など信用していなかったように記憶しています。
日本の格付会社はまったく別かと言えば、大同小異でしょう。当時よく、営業的に格付けの引き上げは積極的にするが引き下げには消極的、という指摘がされていたことを覚えています。ダメなものにダメと言えない(黙殺する)のであれば、格付けをする主体としては不相応でしょう。
その後、10年が経ちましたが、格付会社は世間の信頼を回復する機会は特にないまま、人の「喉元過ぎれば熱さ忘れる」性質を活用して、なあなあでここまできているというのが個人的な認識です。
それでも、格付会社でなければ評価しづらい会社の信用や複雑な金融商品はあるでしょう。ビジネスの現場では、資金調達やM&Aなどの際に、格付けというものが完全ではないにしても、参加者全員の共通の目安のひとつとなり、案件を前に進めることができる場合もあると思います。
格付会社には、せめて、そういう分野で誠実に頑張って、世の中での信頼回復にいそしんでいただきたい。
私たち個人投資家もしっかりしよう
投信の選択や購入は、べつに格付会社の世話にならなければならないほど、複雑でもなければ難しいものでもありません。毎日の仕事や人間関係の難しさに比べたら、本を一冊読めば十分理解できる程度のシンプルなものです。
10年以上前から投信販売について私がよく言ってきたのが、「投信を売る方も買う方ももっとしっかりしよう」ということです。
格付会社を含めて、すねに傷ある金融機関には襟を正していただきたい一方で、私たち個人投資家も、「お金を預けるのだから金融機関は親切に教えてくれるべき」という甘えを捨て、投信での投資について、最低限の知識は身につけて、自分で考えるべきところは考え、自分で選ぶべきものは選ぶというスタンスは必要だと思います。
それが金融機関と個人投資家のお互いの健全な成長・発展ためです。
身もフタもない結論
結論として、「投信を買う金融機関選びに、格付会社による投信販売会社の格付けは役に立つか?」という問いに対しては、
「格付けが役に立つかどうかに関係なく、自分で選んだ投信を買えるネット証券で自分で買うのがベター」
「いちいち格付けする意味自体がほとんどない」
というのが個人的な考えです。
繰り返しになりますが、個人的な見解かつ関係者の方々にとって不愉快な意見であることをお詫びします。でも、読者の皆さまの投信販売会社選びの何かのご参考になればそれでよいと思います。
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