「投資とギャンブルは何が違うのか」という興味深いレポート
水瀬ケンイチ

「投資とギャンブルは何が違うのか」という興味深いレポートがニッセイ基礎研究所から出ています。
金融庁の報告書「高齢社会における資産形成・管理」いわゆる年金2,000万円不足問題をきっかけに、投資についての関心が高まっている。そのような中、「投資=ギャンブル」という声を耳にする機会があった。資産運用業に携わる...
詳しくは上記レポートをご覧いただきたいのですが、無理やりまとめると、「期待収益率がプラスであるのが投資ではないか」という主張です。
インデックス投資家の皆さまがわかりやすいように翻訳(?)すると、「期待リターンがプラスなら投資、マイナスならギャンブル」という主張です。
この定義には、私も概ね賛同します。
リスクがありつつ期待リターンがプラスということは、短期では儲かったり損したりがありつつも長期でならせばプラスと期待できるということ。たとえば、株式や債券がこれにあたります。
逆に、リスクがありつつ期待リターンがマイナスということは、短期では儲かったり損したりがありつつも長期でならせばどんどんマイナスになっていくということ。たとえば宝くじやBIGがこれにあたります。まさにギャンブル。
ただ、上記レポートの筆者が投資がギャンブルか否かに絡めていう「日本では投資に対して良いイメージを持つ人がまだまだ少ないことは事実であろう。その背景には、投資の成功体験を持つ人が少ないことがある」というのは、ギャンブルか否かという問題とは直接関係ないと思います。
人が積極的に投資できるせいぜい20~30年間において、投資のリターンがマイナスだったからといって期待リターンがマイナスというわけではない。
期待リターンの計算方法はいくつかあります。
資産のリターンをいくつかの構成要素に分解し、個々の要素について予測値を置き、それらの積み上げを行って将来のリターンを予測する推計方式や、長期的な利益成長率を一定とした理論株価モデルなどがあります。
しかし、少なくとも、過去の単純な平均リターンを期待リターンとするのは(いちおう「ヒストリカル法」という名前は付いていますが)不適切だというのが機関投資家の間では常識といいます。
<ご参考>
「リスクと期待リターンは過去のデータから計算できる」の嘘 (その1) - 梅屋敷商店街のランダム・ウォーカー(インデックス投資実践記)
なので、世間一般の投資に対するイメージと、期待リターンが同一線上にあるかのような説明には違和感を覚えます。
日本の失われた20年だか30年だかを根拠に、日本人が投資に対して抱くイメージが悪いことと、期待リターンがプラスか否か(≒ギャンブルであるか否か)は直接関係がない。
こういうと、すぐに「日本株はバブル最高値の3万なんぼをいまだに上回れていないじゃないか!」と鼻息荒く反論してくる中高年が出てくるのですが、これは行動ファイナンスでいうところの「アンカリング」そのものの良い実例と言わざるを得ません。
アンカリングとは、先に与えられた参考値に基づき判断してしまうバイアスのことで、物事の本質を見誤る原因のひとつだと考えます。
20~30年というのは、長期投資の世界では決して十分に長いといえる期間ではありません。ここ最近、好調と言われる米国株でも、かつて1966 年から1982年は長期の「ボックス相場」で「株式の死」と言われた不調の期間がありました。
直近好調な米国株をもてはやし、日本株を貶す風潮がありますが、これは近視眼的なアンカリングかもしれません。
いろいろ書いてきましたが、「期待リターンがプラスなら投資、マイナスならギャンブル」というニッセイ基礎研の主張には賛同します。あわせて、期待リターンは、過去20~30年の平均リターンではないことを申し添えて、筆を置きたいと思います。
<追記> 2019/06/22
レポート著者の方からご連絡があり、「期待収益率がマイナスのものは消費といっていますが、ギャンブルとはいっていない」とのご指摘をいただいたことを追記させていただきます。(ではタイトルのギャンブルの話はいったいどこへ…?という気がしないでもありませんが)
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