「天高く馬肥ゆる秋」のほんとうの意味
水瀬ケンイチ
秋は空も高く澄み渡り馬も肥える。「天高く馬肥ゆる秋」ということわざは、秋の時節のすばらしさを意味します。
もともとは、中国の北方の騎馬民族の侵入に備えるよう注意を喚起した語とのこと(広辞苑より)。北方の騎馬民族が滅んでからは、ことわざの意味が平和的に変わっていったようです。
言葉の意味は、時とともに変わったり、失われていってしまうことがあります。
しかし、特定の組織や人物が、言葉をむりやりねじ曲げて流布しているとしたらどうでしょう。
投資においても、言葉に勝手な意味づけをしたり、独自の造語をさも当然のように使うなどしている例が見られます。
たとえば、某マスメディアは投資信託の「基準価額」のことを「基準価格」と勝手に書き替えて報道しています。
投資信託の目論見書や運用報告書、あるいは投資信託協会の用語集などのどこを見ても、基準価格などという言葉は出てきません。某マスメディアの造語なのです。
「価額」という言葉がわかりにくいということなのかもしれませんが、「価額」は価値(Value)を表し、「価格」は値段(Price)を表します。言葉が持つ本質的な意味が異なります。
投資信託のことだけ書いていればすむ時代にはそれでよかったのかもしれません。しかし、投資信託のあとに、ETF(Exchange Traded Fund)が登場しました。
詳しいことは、別の記事に譲りますが、1日1回基準価額が決まる投資信託と違い、ETFは、基準価額はあるものの、市場で売買されて時々刻々と市場価格が変動するので、ファンドの基準価額と市場価格に乖離(基準価額に対して市場価格が割安になったり割高になったり)が頻繁に起こります。
<ご参考>
2020/10/31 国内ETFの「市場価格と基準価額の乖離」(20年10月末)、ウォッチ銘柄は高品質な連動 - 梅屋敷商店街のランダム・ウォーカー(インデックス投資実践記)
でも、投資信託の基準価額のことを、価額なのか価格なのか曖昧な造語「基準価格」と勝手に書き替えて報道していた某マスメディアは、ETFの「基準価額」と「市場価格」を書き分けることができなくなってしまいました。
他にも、著名な某投資ブロガーが、「『投資』にはよい意味があるが、『資産運用』にはよくない意味がある」と勝手な意味づけをして、「『資産運用』ではなく『投資』をすべき」と熱く独自理論を展開していた時期がありました。
株や債券に『投資』することで『資産運用』しているまわりの投資家たちは「???」と困惑していました。
人はそれぞれ考え方が異なるものであり、それをお互いに理解したり、間違いを正しあったりすることは、ただでさえ難しい営みです。それらを媒介するはずの言葉が、共通の意味で使われなければ、話が余計にこじれてしまい、まとまる話もまとまらなくなってしまう。
変な造語を作ったりや勝手な意味づけをすると、後々、皆が苦労することになります。
言葉はできるだけその意味に忠実に、大切に使いたいと思います。
一般に、投資信託の価格のことを「基準価額」(きじゅんかがく)と言います。目論見書にもそう書かれています。先般、目論見書の簡素化が行なわれ、一部の専門用語が一般的な用語に変更されましたが、変更後も基準価額は基準価額のままのようです。ところが、日経新聞では基準価額のことをなぜか「基準価格」(きじゅんかかく)と表記することが多いのが、昔から気になっていました。今朝の日経新聞でも、4面中央の「ことば」とい...
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