投資信託の一物二価ならぬ「一物多価」を日本経済新聞が指摘
水瀬ケンイチ
日本経済新聞電子版に、投資信託の一物二価ならぬ「一物多価」についての記事が掲載されています。
同じ商品に別々の価格がつく「一物多価」と聞くと、証券関係者の多くはけげんな顔をするだろう。売り買いの綱引きで1つの株価が決まる証券取引の世界に親しんでいるからだ。ところが、投資信託はまったく同じ運用なのに、違う商品名を付け、別々の運用報酬で売ることがある。「知らぬは顧客ばかりなり」だ。世の中では一見、一物多価でもビジネス上の工夫として許せるケースも多い。投信は許せるのか検討してみたい。グラフは
詳しくは上記記事をご覧いただきたいのですが、無理やりまとめると、インデックスファンドは運用が同じ(マザーファンドも同じ)にもかかわらず、異なる信託報酬のファンドが同じ運用会社の中でも複数あることを顧客は知らず、問題だという趣旨です。
記事では、三菱UFJ国際投信が運用する新興国株式インデックスファンド5本を例にあげています。
eMAXIS Slim 新興国株式インデックス 実質信託報酬 0.187%
eMAXIS 新興国株式インデックス 実質信託報酬 0.66%
三菱UFJ新興国株式インデックスファンド 実質信託報酬 0.374%
つみたて新興国株式 実質信託報酬 0.374%
新興国株式インデックスオープン 実質信託報酬 1.1%
(データは上記記事、投信の一物多価は許せるか 同じ商品で異なる報酬: 日本経済新聞より)
いずれもマザーファンドは同じ「新興国株式インデックスマザーファンド」であるにもかかわらず、信託報酬は年0.187%~1.1%まで幅があります。さらに、記事ではリターン(2017年8月~2021年2月)についても比較しており、+26.2%~+30%と幅があることを指摘しています。信託報酬が低いものほどリターンが高く、逆に信託報酬が高いものほどリターンが低い結果となっていました。
インデックスファンドの信託報酬が低いほどリターンが高いことは、インデックスファンドの運用コストとリターンを定期的に比較し続けている私のようなマニアからすれば常識ですが、多くの顧客にとっては、記事の中の言葉を借りれば「知らぬは顧客ばかりなり」なのかもしれません。
この「一物多価」状態を顧客が知らないことについて、記事では、金融機関と顧客との間には情報の非対称性があり「許しがたい」と批判しています。また、金融庁も問題視しており、金融庁が求めるフィデューシャリー・デューティー(顧客の利益を最大限考慮すること)に違反していると言われかねないと指摘しています。金融商品の販売時に顧客に配布する予定の「重要情報シート」に同工異曲の商品を信託報酬とともにすべて列挙させる案まであるそうです。
一方で、金融機関側の事情として、手数料が安い投信の方にすべて収束していくと、ビジネスが成り立たなくなる恐れがあると一定の理解も示しています。
私は個人投資家なので、金融ビジネスが今後どうなるかまで忖度する立場にありませんし、むしろ忖度するべきではないと考えています。
金融機関は、市場の価格変動リスクをいっさい負うことなく手数料(信託報酬=販売会社・運用会社・信託銀行で山分け)を取ることができる立場にある一方、投資家は価格変動リスクをすべて負う代わりにリターンも「ほぼ」すべて取ることができるという構図にあることを強く意識しています。投資家ができるだけ高いリターンを求めるのは当然のことです。価格変動リスクを負っているのは投資家側だけなのですから。
投資家側が少しだけ賢くなって、自ら良いインデックスファンドを探し出す必要があると思います。
インデックスファンドの場合、運用結果に差がつく要因として信託報酬などの運用コストが決定的に重要です。リターンを少しでも増やすためには、市場から得られるリターンから毎日抜かれる運用コストを、できるだけ低く抑えてくれる低コストなインデックスファンドを選びたい。
金融機関から「重要情報シート」が提供されようがされまいが、投資家は、できるだけ運用コストが低いインデックスファンドを、他社の商品も含めて自ら比較して、自ら選択する姿勢が大切だと思います。
また、「一物多価」で運用コストが高い商品については、投資家はSNSで「それは問題だ」とつぶやいて終わるのではなく、できれば一歩ふみこんで「信託報酬を下げてほしい」と自ら直接運用会社に要望するとさらによいと思います。運用会社のWEBサイトの問い合わせフォームやイベント等で直接伝えることができます。少なくとも私はそうしてきました。
「自ら」「直接」というのがポイントです。顧客からの要望がなければ、企業は動きません。逆に、顧客からの要望がどんどん増えてくれば、企業は大変な課題でもなんとかして商品・サービスを提供しようとします。傍観者ばかりの市場では誰も動きません。これは市場経済においてはあたりまえの話です。
もしかしたら、いま自分が投資しているインデックスファンドが、「一物多価」の高い方かもしれません。調べてみておかしいと思ったら、ぜひ、行動を起こしてみてほしいです。そして、創意工夫と経営努力によってインデックスファンドの運用コストを引き下げてくれた運用会社には、最大限の感謝と称賛を。
最後に、運用コストが低いインデックスファンド探しのお手伝いができるコンテンツが、当ブログにもあります。主要なインデックスファンドの徹底比較を定期的(3か月ごと)に行なっています。何かのお役に立てば幸いです。
梅屋敷商店街のランダム・ウォーカー(インデックス投資実践記) 低コストインデックスファンド徹底比較カテゴリ
低コストインデックスファンドの徹底比較記事のカテゴリです。3か月ごとに更新中!
- 関連記事
-
-
2024年4月から投資信託のコスト開示が変わる。「総経費率」の目論見書記載を義務付け 2023/06/08
-
資金純流出入額ランキングでインデックスファンドが上位独占。アクティブファンドにも投資妙味がという説明は…? 2023/05/07
-
投信の運用コストの比較は信託報酬だけでなくその他費用を加えた「総経費率」を見ることが重要 2023/04/29
-
長期投資向きの投信が日本で育たない理由 2022/08/07
-
今度こそ“低コストなアクティブファンド”がインデックスを上回る? 2022/08/05
-
日本の投資信託市場が大転換するかも 2022/06/04
-