インデックスファンドの3倍のコストがかかるアクティブファンドへの投資の必要性
水瀬ケンイチ
モーニングスターに「インデックスファンドの3倍に相当するアクティブファンドのコストは正当か?」という興味深い記事が掲載されています。
(インデックスファンドの3倍に相当するアクティブファンドのコストは正当か?=投資信託のコストとベネフィット(2)| モーニングスターより)
詳しくは上記図表とコラムをお読みいただきたいのですが、無理やりまとめると、アクティブファンドはインデックスファンド3倍のコストがかかり平均リターンはインデックスを下回るが、ファンドマネージャーは全力で努力していて中にはインデックスを上回るものもあるので、投資家はコストに見合うリターンが得られるかどうかを判断する必要がある、というもの。
あの……ファンドマネージャーは全力で努力してるのでコストはかかるが結果は自己責任というだけでは、アクティブファンドへの投資の必要性や正当性について、ほとんど何も言っていないのと同じでは。
上記図表にあるとおり、各資産クラスの10年リターン(年率)を見ると、アクティブファンドの平均とインデックスはほぼ同じか、世界の株式時価総額の約8割を占める先進国株式クラスのようにインデックスの方が高い。
低コストなインデックスファンドを買うだけで、労せずしてアクティブファンドの平均以上のリターンを得られることを自らデータで示しておきながら(上記図表)、平均的に不利なアクティブファンドの中からインデックスを上回る稀少なアクティブファンドを、投資家は自らの判断で選択するべきという主張は、読めば読むほどわかりません。
「それなら、手間なくリターンが良いインデックスファンドを自己責任で選びます」、もっと言ったら、「アクティブファンドへの投資は不要」という話になるのが自然だと思います。
平均的にはダメだけど、まれに一発スゴいリターンをあげるものもあるから、それに賭けるべし(ただし自己責任で)というロジックは、通常、合理的ではありません。特別に山っ気がある人にとっては魅力的かもしれませんが、それを一般化するのは無理がある。
現在、日本の全上場企業数は約3800社ですが、日本の投信銘柄はそれよりも多く約6000本もあります。そのうち、インデックスを上回るごく一部のアクティブファンド(しかも顔ぶれは毎年変わる)を投資家は自分で判断して探せ、という主張は、たとえるなら「干し草の山から針を探せ」というのと同じ。不可能ではないが苦労の割に報われず、費用対効果、いわゆる「コスパ」が悪すぎる。
上記モーニングスターの記事では、アクティブファンドについて、「運用コストはパッシブに対して高いが、そのコストに見合う努力は、ファンドマネージャーが全力で行っているのだ」とアクティブ運用にかかるコストと努力を強調しています。
じゃあ、良いアクティブファンドを選択するための方法でも書かれてるのかと思えば、選択方法については何も書かれておらず、そのくせ「投資したアクティブファンドのパフォーマンスがインデックスファンドを下回った場合、そのファンドを選んだ投資家の『見る目がなかった』というしかない」と突き放した自己責任論を述べるにとどまっています。
監督省庁や投信運用会社経営者のように、日本の投信業界やアクティブファンドを育てる責務でも背負っているのであればまだわかりますが、私たち多くの一般人にとって、投資は仕事でも趣味でもありません。朝から晩まで投資や投信のことを考えているわけではなく、本業の仕事や家族との生活や趣味の活動などで忙しいのです。
投資や資産運用は、豊かに生きるための手段のひとつであって目的ではない。人生においておまけ中のおまけに過ぎないんですよ。
モーニングスターの記者さんにおかれましては、私たち一般人は日本の投信業界やアクティブファンドを育成するために投資しているのではないという厳然たる事実をよくよくかみしめ、データから読み取れるフェアな内容の記事を書いてほしいと思います。
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