「リスク抑制投信」の失敗事例から学べること
水瀬ケンイチ
「リスク抑制投信」の失敗を記録しておきます。
「リスク抑制型」と呼ばれるバランス型投資信託が、安定的な運用を求める投資家層に根強い人気だ。ただ過去の成績はまちまちで、安値圏のまま繰り上げ償還になる投信も複数出ている。リスク抑制型が目指すのは、相場の下落局面では株などリスク資産の比率を下げて基準価格の下落を抑制する運用。底入れと判断すれば再びリスク資産の比率を上げ株価上昇の恩恵を狙う。ただ「機動的な配分変更はプロでもうまくいくとは限らない」
日本経済新聞電子版が、「リスク抑制型」と呼ばれるバランス型投資信託が安定的な運用を求める投資家層に根強い人気だったものの、安値圏のまま繰り上げ償還になる投信も複数出ていることを報じています。
リスク抑制型は、相場の下落局面では株などリスク資産の比率を下げて基準価格の下落を抑制する運用で、機動的に株式と債券の資産配分を入れ替えます。そして、ある一定ラインまで株価が下がるとほぼ現金での運用にするというものが多いです。
これがうまくいけば、損を避けてリターンだけ享受できそうな印象を持ってしまうかもしれません。しかし、「機動的な配分変更はプロでもうまくいくとは限らない」(独立系運用アドバイザーの吉井崇裕氏)のが現実です。タイミング投資は失敗の元です。
今年2021年2月に、金融庁の少額投資非課税制度「つみたてNISA」が2018年にはじまってから丸3年経った頃、当時の対象ファンド140本中、なんと139ファンドが含み益だったところ、唯一マイナスになったという(悪い意味で)目立っていた1本が、「東京海上・円資産インデックスバランスファンド(愛称:つみたて円奏会)」でした。上記にある「リスク抑制投信」でした。
つみたてNISA丸3年、対象ファンド140本中なんと139ファンドが含み益!
金融庁の少額投資非課税制度「つみたてNISA」が2018年にはじまってから丸3年。当時の対象ファンド140本中、なんと139ファンドが含み益とのこと。つみたてNISA3周年、大部分の投信が含み益に積み立て型の少額投資非課税制度(つみたてNISA)が2018年1月に始まってから丸3年が経過した。米中対立による相場乱高下やコロナショックなどヒヤヒヤする局面が多い3年間だったが、そんななかでもコツコツ積み立て投資を続けていたらどれく...
そして、今年2021年9月2日に繰り上げ償還となったのが「SMBC・アムンディ プロテクト&スイッチファンド(愛称:あんしんスイッチ)」です。上記にある「リスク抑制投信」でした。
プロテクトライン(PL)と呼ぶ最低保証額(基準価格で9000円)を設定、運用担当者が相場局面を判断してそれを上回る運用を目指す一方、PLまで下落すると繰り上げ償還する仕組みで、「下値が限られる一方で上昇も狙える」と人気で、純資産はピーク時には2300億円を超えたそうです。
私はこの商品が発売された時に、たまたま金融庁のイベント「つみたてNISA Meetup(つみップ)」で、販売会社の三井住友銀行の営業マンがこの商品を紹介するのを聞く機会がありました。大変申し訳ないのですが、とても気持ち悪く感じました。
ハイリスクを取らなければハイリターンは狙えず、ローリスクでいるためにはローリターンを甘んじて受けなければならないのが市場の常です。運用者がどんなに優秀でどんなにすごいプログラムを作ったとしても、損失を限定してリターンだけを狙うなどという「美味しいとこ取り」のような芸当はできるわけがないと考えているからです。
当時(2017年8月)の私のTwitter投稿がこれです。
アムンディが運用、三井住友銀行が販売するプロテクトラインがついた投資信託「あんしんスイッチ」からオブラートに包んでもなお漏れ出てくる腐臭がする。なんだこれ…
— 水瀬ケンイチ(みなせけんいち) (@minasek) August 17, 2017
ローリスク&ハイリターンのようなうまい話などありません。ハイリターンを得るためにはハイリスクを取る必要があります。その一方で、ハイリスクを取ったからといって必ずハイリターンが得られる保証などない。市場というのはそのような厳しい世界です。
あらためて「リスク抑制投信」の失敗事例から学べることがあるとしたら、投資において「うまい話などない」というあたりまえの教訓でしょう。
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