「1億総株主」を目指すなら相応の情報提供もするべき
水瀬ケンイチ

なんと自民党は「1億総株主」を目標にすることを岸田首相に申し入れたそうです。
貯蓄から投資への流れを進めるため、自民党が「1億総株主」を目標にした提言を、岸田首相に申し入れた。自民党の経済成長戦略本部の提言は、日本が「欧米と比較して、現金や預金の割合が非常に高く、株式や投資信託の割合が低い」と指摘し、国民が「1億総株主」になり、「成長の果実を享受できることが重要」としている。そして、「NISA(少額投資非課税制度)の抜本的拡充などを進め、資産所得倍増を目指す」などとしている。提言を受けた岸田首相は、政府の「新しい資本主義実行計画」などに反映させる意向を示したという。
株式や投資信託への投資を促進することは、総論的には良いことだと私は思います。
記事にもあるとおり、日本は欧米と比べて現預金の割合が非常に高く、株式や投資信託の割合が低いのは事実。欧米の人よりも資産から得られた所得が少ないのが日本人です。

(出所:金融庁)
上記グラフは金融庁の「つみたてNISA」の説明資料によく出てきたデータです。
では、日本国民全員がつみたてNISAで投資信託に投資すれば皆ハッピーかというと、必ずしもそうではない人もいると思います。たとえば、「リスク許容度がゼロ」の人です。
リスク許容度はいくら(何%)までだったら損失に耐えられるかという尺度のことですが、年収や家族構成、本人の性格などによって人により大きく異なります。年間100万円の損失までなら耐えられるしその後の収入でリカバリーできるだろうと考える人がいる一方で、1円でも損したら許せないし悔しくて夜も眠れないという人もいます。
(ちなみに私は自分で年間30~40%くらいの下落なら許容できそうだと考えています)
リスク許容度がゼロの人はべつに恥ずべきことではありませんが、投資には向いていないでしょう。預貯金や個人向け国債など元本保証がある商品で運用するのが向いていると思います。
そういう人にまで、「1億総株主」だといって株式や投資信託をやらせるのは、不幸のもとになってしまうかもしれません。
そもそも、投資は自己責任とか、投資はリスク許容度の範囲内でとか言われても、投資に関する基礎知識がまったくない人はなんのことかわからず、やるやらないの判断もできないことでしょう。
まずは、まともな投資の本を1冊くらい読んで、基礎知識をつけてから、つみたてNISAでの投資を検討するというステップは必須だと私は思います。
長期・分散・低コストを守ったつみたて投資であれば、長期でリターン増が期待できますが、リスクもあるので短期的には損益がマイナスになることも普通にあります。その時に次の上昇までじっと耐えられるかどうか。
拡充が検討されているという「つみたてNISA」も、損益がプラスの時に税金が非課税になるのがメリットなのであって、損益がマイナスなら何の役にも立たないどころか、他の口座との損益通算ができないなどデメリットすらあります。
自民党と岸田首相は「1億総株主」というアグレッシブな目標を掲げるのであれば、相応の情報提供もするべきだと思います。
1億総株主を目指すのは結構なことですが、世の中にはマスコミや政治家をはじめ1円でも損すると大騒ぎする「リスク許容度ゼロ」の人たちが相当数います。
— 水瀬ケンイチ (@minasek) May 30, 2022
リスク許容度は人によって異なるので、投資は各自のリスク許容度の範囲内で行うことを相当注意喚起しないと、下げ相場で地獄絵図になりますよ。
- 関連記事
-
-
日本の暗号資産(仮想通貨)が狙われている? 2023/05/15
-
悪質な投資詐欺から自分を守る「ものさし」がある 2023/05/01
-
新入社員の皆さんへ、梅屋敷商店街のランダム・ウォーカーからのメッセージ (2023年版) 2023/03/31
-
自炊生活を1ヶ月続けたら食費はどれくらい安くなるか 2023/03/18
-
20~30代の証券取引の50%以上がスマホ 2023/02/18
-
テレワークという働き方の選択肢は残すべき 2023/02/11
-