現在1ドル134円ですが理論値は110円!? それどころか…

水瀬ケンイチ

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先日、1ドル134円で20年ぶりの円安水準になっているという報道がありましたが、購買力平価で見た場合、現在の理論値は1ドル110円とのデータがありましたので記録しておきます。

円、理論値より大幅安 経済状況でみれば「110円前後」

外国為替市場で円の下落が止まらない。先週は対ドルで3%下落し1ドル=134円台半ばと20年ぶりの安値を更新した。物価や経済状況からみた理論値は1ドル=110円前後と試算され、実勢レートは理論値に比べ大幅に円安に傾いている。ただ、米国の物価上昇率が高止まりし、米金利の上昇観測は一段と強まった。日米金利差の拡大を手掛かりにした円売り圧力は週明けも続きそうな情勢だ。「物価上昇圧力はピークに達していな


詳しくは上記日経記事をご覧いただきたいのですが、国際通貨研究所が日米のCPIから算出した購買力平価(1973年基準)は、4月時点で1ドル=110円03銭。同月の実勢値(1ドル=126円)は理論値に比べ13%も割安で、割安度合いはデータを遡れる1973年以来で最大とのこと。



上記グラフを見ても、「購買力平価(理論値)」を下回っている(円安に振れている)のがわかります。なるほど、なるほど。

ところが、話はそこで終わりません。

上記日経記事には書かれていませんが、購買力平価には「消費者物価PPP」「企業物価PPP」「輸出物価PPP」といろいろな種類があります。上記日経記事では「CPI基準」と書かれているので、「PPP based on Consumer Price Index」=「消費者物価PPP」を見て分析したものと思われます。

かなり昔の話となりますが、購買力平価はどの数字を見るのが適切なのかがわからず、いろいろ調べたことがありました。そこで見つけたひとつの答えが、竹中正治龍谷大学教授が主張する「企業物価PPP」で見るのが適切ということでした。

購買力平価(あるいは為替相場の実質化)に適合する物価は、貿易財だから非貿易財の比率が高い消費者物価指数は妥当性が低いというのがその理由でした。

購買力平価で「企業物価ベース」を使う理由が分かった!

昨日のブログ記事、「購買力平価でみると円高は約15%行き過ぎ!?」のなかで、購買力平価には「消費者物価PPP」「企業物価PPP」「輸出物価PPP」等といろいろな数字があるが、一体どれが適切なのか分からない。日経新聞経済教室に出ていた竹中教授は、「企業物価PPP」を使って購買力平価を説明しており、参考になると同時に、何故「企業物価PPP」を使うのか、その理由が分からないという旨のことを書きました。読者のhinoさんから、...


その「企業物価PPP」で見ると、現在の理論値はなんと1ドル88円!



「消費者物価PPP」で見た110円どころの話ではありませんでした。現在の1ドル134円は理論的には円安水準である可能性が高いんだろうなと思います。

ただし、購買力平価の扱いには注意事項がそえられます。投資において購買力平価は短期では使えず、長期の為替レートの動きを占う理論としてしか使えないということです。

為替レートの決定要因は購買力平価に使われる各種変数以外にも経済的・政治的要素など変数がたくさんありすぎて、短期的には理論値どおりにならないことも多いです。実際、現在も含めて10年単位で理論値から大きく乖離しています。理論値にすぐに収れんすることを期待して、FXで大きな逆張りポジションを取ったりするのはおすすめしません。

あくまでもひとつの参考情報として知っておくというのが、購買力平価とのいいあんばいの付き合い方だと思います。自分の資産運用に活かすには、いつ円高になっても円安になってもあわてずにいられるバランスのとれた資産配分を。


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Posted by水瀬ケンイチ