【マスコミ調査】公的年金の2022年度第1四半期運用実績がちょいマイナス。お粗末な報道内容拡大
水瀬ケンイチ
公的年金の積立準備金を運用するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法)は2022年8月5日に、2022年度第1四半期運用状況報告を公開しました。
#GPIFは、2022年度第1四半期運用状況(速報)を公表しました。https://t.co/CsIcXrxP1f pic.twitter.com/c2yIu5Zn9O
— GPIF (@gpiftweets) August 5, 2022
◆2022年度第1四半期(2022年4月~6月)
収益率: -1.91%(期間収益率)
収益額: -3兆7501億円(期間収益額)
運用資産額: 193兆126億円
◆市場運用開始以降(2001年度~2022年度第1四半期)
収益率: +3.56%(年率)
収益額: +101兆6787億円(累積収益額)
簡単にいえば、2022年度第1四半期は久々の「ちょいマイナス」。収益率は-1.91%(期間収益率)、収益額は-3兆7501億円(期間収益額)という結果でした。累積収益額は+101兆126億円、収益率も年率+3.56%とこちらは堅調に推移しているというのが全体像です。(なお、GPIFの運用目標は中期で年率賃金上昇率+1.7%)
収益がマイナス時には張り切って「年金叩き」を行うマスコミ各社、久々に期間収益マイナスだった今期の対応はどうでしょうか。調べてみました。
Googleニュースで各メディアのネット報道内容をチェックします。チェック項目は過去のブログ記事と同様、(1)収益額、(2)収益率、(3)運用開始からの累計実績、とします。
公的年金の運用実績(2022年度第1四半期)に対するマスコミ各社のネット報道状況
(1)収益額 | (2)収益率 | (3)累計実績 | 備考 | |
日本経済新聞 | ○ | ○ | ○ | |
ロイター | ○ | ○ | × | |
ブルームバーグ | ○ | ○ | ○ | |
朝日新聞 | ○ | ○ | × | |
毎日新聞 | ○ | × | × | お粗末報道 |
読売新聞 | - | - | - | 報道なし |
産経新聞 | - | - | - | 報道なし |
共同通信 | ○ | × | × | お粗末報道 |
時事通信 | ○ | × | × | お粗末報道 |
NHK | ○ | ○ | ○ | |
日本テレビ | - | - | - | 報道なし |
TBS | - | - | - | 報道なし |
フジテレビ | - | - | - | 報道なし |
テレビ朝日 | - | - | - | 報道なし |
テレビ東京 | - | - | - | 報道なし |
まず、テレビメディアは壊滅的です。NHK以外、報道すらありません。国民の最大級の関心事である公的年金についてこの対応は論外。
新聞メディアは、前回に比べて報道内容が悪化しています。前回は報道があった読売新聞、産経新聞は報道自体なくなりました。また、前回は(1)収益額、(2)収益率、(3)累計実績のフル項目でわかりやすい報道内容だった朝日新聞とロイターは、(1)収益額、(2)収益率のみに内容がグレードダウン。毎日新聞は相変わらず「公的年金運用、3.7兆円赤字」と(1)収益額のみのお粗末報道です。
共同通信と時事通信は、そろって(1)収益額のみのお粗末報道です。地方新聞などに記事を配信しているので、お粗末報道が再生産されており甚だ遺憾です。
(1)評価額しか表記しないのは、過去に収益率がわずか年率5%のマイナスであったにもかかわらず、「年金で8兆円の巨額損失!」と金額の大きさのみを前面に出して騒ぎ立てた時と同じ構図です。今回は「公的年金3.7兆円の損失」です。
「3.7兆円の損失」と金額だけ見せられると読者は大損害、大失敗のように感じてしまいますが、公的年金の運用総額は現在193兆円と超・巨額です。(1)評価額3.7兆円だけでなく、(2)損益率-1.91%、そうでなくてもせめて運用総額193兆円は併記しないと、その損失金額が、重症なのか軽傷なのかすら読者は評価できません。お粗末な不十分報道だと私は思います。
一方、日本経済新聞、ブルームバーグ、NHKは、(1)収益額、(2)収益率、(3)累計実績のフル項目がすべて表記されていました。いくら損した(儲かった)のか? それは全体に対してどの程度の影響なのか? 過去からの累計分を全部ひっくるめるとどうなのか? という年金運用実績の全体像が評価できる、読者にとってわかりやすい報道になっていました。
公的年金の年金積立金の運用実績というひとつの切り口ではありますが、日頃から国民に正しい情報を届けようとしているのか、ネガティブ報道だけを大々的にやろうとしているのか、メディアの報道スタンスを垣間見ることができます。
公的年金制度に関しては、人口増加を前提とした制度設計であることや、未納問題、過去には消えた年金問題、マクロ経済スライドの未実施等、多くの課題を抱えていることは事実です。
しかし一方で、年金積立金の運用については真面目に行われており、情報公開も進んでいるというのが、運用をウォッチしている私の認識です。これらの公開情報は、世界最大級の機関投資家の情報として、個人投資家の資産運用にも大いに参考になるものです。
年金は国民の最大級の関心事のひとつです。マスコミ各社は煽る方向ばかりに張り切るのではなく、良いことも悪いことも含め、きちんと「事実」を伝えてほしいと思います。
P.S
本文にも書いたとおり、ネットで公開されている範囲での情報収集なので、「ニュースサイトには掲載していないが、新聞本紙では掲載している」「○時○分のTVニュースで触れた」等の事情はあるかもしれません。だからといってメディア名を冠したネットニュースには非掲載でよいという理由にはなりません。
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