そもそも日銀の金融政策の目的ってなんだっけ?
水瀬ケンイチ

株安になれば日本銀行(日銀)なんとかしろ、円安になれば日銀なんとかしろ、物価高になれば日銀なんとかしろ、できてないから総裁辞任しろとメディアや政治家が騒ぎたてています。ここで、そもそも日銀の金融政策の目的はなんなのかということを確認してみたい。
2%のインフレ目標の達成を悲願とする日銀。物価上昇率は3%台に到達したのに、黒田東彦総裁は「今すぐに金利引き上げや(金融緩和策の)出口が来るとは考えていない」と動きを止めたままです。円相場も日銀緩和が一因となって1ドル=150円台まで一時下落。野党などから日銀批判も飛び出す中で、かたくなに日銀が緩和を維持する理由を読み解きます。この記事のポイント高インフレはいつまで続く?黒田総裁の本心は?動かない日銀がもたらす問題点は?
上記の日経新聞の記事をじっくり読むと、日銀の金融政策に対して以下の対応を求めて批判していることが伺えます。
・物価(インフレ目標2%に到達したのになぜ動かかないのか)
・為替(1ドル150円の円安水準になっているのになぜ動かないのか)
・景気(金利を上げないと次なる景気悪化に備える余力を持てない)
物価、為替、景気など、なんでもかんでも日銀の金融政策次第といった様相に見えますし、なんとなくそれら全般に対して日銀が金融政策でなんとかする責任を負っているように多くの方は思っているかもしれません。
そこで、そもそも論です。そもそも日銀の金融政策の目的ってなんだっけ?
日銀の公式サイトには、日銀が通貨及び金融の調節を行うに当たっての理念として、「物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資すること」を掲げています。(出所:金融政策の概要 : 日本銀行 Bank of Japanより)
為替や金利や景気ではなく、あくまでも物価の安定です。
ちなみに、米国FRB(連邦準備制度理事会)の金融政策の目的は、最大雇用(maximum employment)、物価の安定(stable prices)、長期金利の安定(moderate long-term interest rates)を掲げています。(出所:FRB | みずほ証券 ファイナンス用語集)
米国ではFRBの目的が3つあり、その達成に向けて様々な金融政策が行われています。
それ対して、日銀の金融政策の目的は物価の安定のみです。そのための「手段」としてやっているのが、長短金利操作だったり、マネタリーベースの操作だったり、ETF等資産の買い入れだったりするわけです。
ですから、株安をなんとかしろとか、円安をなんとかしろ、景気が悪いからなんとかしろ、とマスコミなど外野がいくら日銀に注文をつけても、当の日銀は、無視するわけではないのでしょうが、物価の安定にフォーカスした金融政策を淡々と行うという構図があります。なぜなら、物価の安定が日銀の金融政策の目的だから。
そういう観点で上記の日経記事を読み返すと、日銀としては物価の安定という目的に対して、何十年も続いたデフレという目的未達成状態からようやく脱却し、長らく目標としていた物価上昇率2%前後に今ようやくなったのですから、悲願の目的達成状態になっているわけです。
円安? 将来の景気? 物価の安定に直ちに影響を及ぼすなら考えますが、まずは物価の安定のキープが先決でしょ。シンプルにいえば、日銀は今そんなスタンスなのではないでしょうか。良くも悪くも。
日銀に対する過剰な要求で騒いでいるメディアや政治家は、そもそもの日銀の金融政策の目的を忘れて(知らないで)騒いでいるだけかもしれません。
日銀に限らず、世の中のどんな組織にも目的が存在します。その目的を達成するために活動しています。活動を第三者が評価するためには、まず組織の目的をしっかりと押さえてから、その達成度合いで評価する必要があるのではないかと私は考えます。
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