【マスコミ調査】公的年金の2022年度第3四半期運用実績が微減。多くのメディアで報道内容の質が改善
水瀬ケンイチ
公的年金の積立準備金を運用するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は2023年2月3日に、2022年度第3四半期運用状況報告を公開しました。
#GPIF は、2022年度第3四半期運用状況(速報)を公表しました。https://t.co/CsIcXrxP1f pic.twitter.com/EAFjP5vAB5
— GPIF (@gpiftweets) February 3, 2023
◆2022年度第3四半期(2022年10月~12月)
収益率: -0.97%(期間収益率)
収益額: -1.9兆円(期間収益額)
運用資産額: 189.9兆円
◆市場運用開始以降(2001年度~2022年度第3四半期)
収益率: +3.38%(年率)
収益額: +98.1兆円(累積収益額)
簡単にいえば、2022年度第3四半期は「微減」。収益率は-0.97%(期間収益率)、収益額は-1.9兆円(期間収益額)という結果でした。累積収益額は+98.1兆円、収益率も年率+3.38%とこちらは堅調に推移しているというのが全体像です。(なお、GPIFの運用目標は中期で年率賃金上昇率+1.7%)
収益がマイナス時には張り切って「年金叩き」を行うマスコミ各社、わずかながらも期間収益がマイナスだった今期の対応はどうでしょうか。調べてみました。
Googleニュースで各メディアのネット報道内容をチェックします。チェック項目は過去の調査と同様、(1)収益額、(2)収益率、(3)運用開始からの累計実績、とします。
公的年金の運用実績(2022年度第3四半期)に対するマスコミ各社のネット報道状況
(1)収益額 | (2)収益率 | (3)累計実績 | 備考 | |
日本経済新聞 | ○ | ○ | ○ | |
ロイター | ○ | ○ | × | |
ブルームバーグ | ○ | ○ | ○ | |
朝日新聞 | ○ | △ | ○ | 運用利回り表記はないが、運用総額表記あり(読者が自分で計算しないと評価不能) |
毎日新聞 | ○ | × | × | 金額表記のみのお粗末報道 |
読売新聞 | ○ | ○ | ○ | |
産経新聞 | - | - | - | 報道なし |
共同通信 | ○ | △ | ○ | 運用利回り表記はないが、運用総額表記あり(読者が自分で計算しないと評価不能) |
時事通信 | ○ | ○ | ○ | |
NHK | ○ | ○ | ○ | |
日本テレビ | - | - | - | 報道なし |
TBS | - | - | - | 報道なし |
フジテレビ | - | - | - | 報道なし |
テレビ朝日 | ○ | △ | ○ | 運用利回り表記はないが、運用総額表記あり(読者が自分で計算しないと評価不能) |
テレビ東京 | - | - | - | 報道なし |
まず、テレビメディアは前回とあまり変わらず日本テレビ、TBS、フジテレビ、テレビ東京がネット報道自体ありませんでした。論外です。
NHKとテレビ朝日は報道があり、内容も(1)収益額、(2)収益率、(3)累計実績がフル項目でわかりやすい報道内容になっていました。できれば、運用実績に関係なく、いつもこの調子で報道してほしいものです。
次に、新聞メディアは玉石混交状態となっています。
産経新聞は報道自体がなく論外、毎日新聞は(1)収益額しか表記していません。
(1)収益額しか表記しないのは、過去に収益率がわずか年率5%のマイナスであったにもかかわらず、各メディアが「年金で8兆円の巨額損失!」と金額の大きさのみを前面に出してセンセーショナル風に報道し、野党政治家を巻き込んでの大騒ぎをした時とまったく同じ構図です。
「1.9兆円の赤字」と金額だけ見せられると読者は大損害、大失敗のように感じてしまいますが、公的年金の運用総額は現在190兆円と超・巨額です。(1)収益-1.9兆円だけでなく、(2)収益率-0.97%、そうでなくてもせめて運用総額190兆円は併記しないと、その損失金額が、重症なのか軽傷なのかすら読者は評価できません。たった-1%弱の軽微な損失をさも大きな損失であるかのように見せたいのかと疑われるような、事実が伝わらないお粗末報道だと私は思います。
一方で、日本経済新聞、朝日新聞、読売新聞は(1)収益額、(2)収益率、(3)累計実績のフル項目でわかりやすい報道内容でした。決して長文が必要なわけではありません。短い文章でも、情報の要点をしっかりと押さえて報道すれば、読者は状況を理解できます。
次に、通信社は改善が見られます。
共同通信は前回は(1)収益額しか表記しないお粗末報道でしたが、今回は(1)収益額、(2)収益率、(3)累計実績のフル項目がギリギリ表記されており、前回よりも改善されています。
また、時事通信も(1)収益額、(2)収益率、(3)累計実績のフル項目がすべて表記されており前回よりも改善されています。
通信社は地方新聞などに記事を配信しているので、お粗末報道をしてしまうとそれが拡大再生産されてしまいます。今後も長文でなくてもかまわないので、情報の要点を押さえた報道と配信をしてほしいと思います。
全メディアを通して、(1)収益額、(2)収益率、(3)累計実績のフル項目がすべて表記されていたのが、日本経済新聞、ブルームバーグ、朝日新聞、読売新聞、共同通信、時事通信、NHK、テレビ朝日と過去最大のメディア数となって全体的に改善が見て取れます。
いくら損した(儲かった)のか? それは全体に対してどの程度の影響なのか? 過去からの累計分を全部ひっくるめるとどうなのか? という年金運用実績の全体像が評価できる、読者にとってわかりやすい報道になっていました。
逆に、テレビメディアのネット報道の無関心さと、毎日新聞のお粗末なスタンスが際立って見えます。

毎日新聞のネット報道は、たった127文字なのにタイトル以外すべて有料記事となっていて、わざわざ紙面を確認してみても(1)収益額の表記のみというお粗末報道でした。これには私もチベットスナギツネの顔にならざるを得ませんでした。
公的年金の年金積立金の運用実績というひとつの切り口ではありますが、日頃から国民に正しい情報を届けようとしているのか、ネガティブ報道だけを大々的にやろうとしているのか、メディアの報道スタンスを垣間見ることができます。
公的年金制度に関しては、人口増加を前提とした制度設計であることや、未納問題、過去には消えた年金問題、マクロ経済スライドの未実施等、多くの課題を抱えていることは事実です。
しかし一方で、年金積立金の運用については真面目に行われており、情報公開も進んでいるというのが、運用をウォッチしている私の認識です。これらの公開情報は、世界最大級の機関投資家の情報として、個人投資家の資産運用にも大いに参考になるものです。
年金は国民の最大級の関心事のひとつです。マスコミ各社は煽る方向ばかりに張り切るのではなく、良いことも悪いことも含め、きちんと「事実」を伝えてほしいと思います。
P.S
本文にも書いたとおり、ネットで公開されている範囲での情報収集なので、「ニュースサイトには掲載していないが、新聞本紙では掲載している」「○時○分のTVニュースで触れた」等の事情はあるかもしれません。だからといってメディア名を冠したネットニュースには非掲載でよいという理由にはなりません。
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