な、なんと株式投資で指数に勝つ方法が日経に掲載されている!?
水瀬ケンイチ

日本経済新聞に、株式投資で指数に勝つ方法についての興味深い記事が掲載されています。
詳しくは上記記事をご覧いただきたいのですが、趣旨をむりやりまとめると、株式投資で指数に勝つ方法とは、①小型株効果②割安株効果③クオリティー④モメンタム(値動きの勢い)の得意分野を決めて3~10銘柄の範囲で投資することとのこと。
インデックス vs アクティブ論争はとっくに決着がついているものであり、もし、この記事がぽっと出のインフルエンサーみたいな人が書いたものであったなら、スルーしていたかもしれません。しかしながら、この記事は、現代ポートフォリオ理論も行動ファイナンスもデリバティブも知り尽くした田渕直也氏が解説したものです。
著書の「ランダムウォーク&行動ファイナンス理論のすべて」は穴があくほど読み込ませていただきました。「ファイナンス理論全史」にもお世話になっています。ですので、これはしっかりと読まなくてはと思いました。
4つの要因のうち、小型株効果と割安株効果の2つは、ノーベル経済学賞を受賞した米シカゴ大学教授のユージン・ファーマ氏らが「3ファクターモデル」という学説で提唱したものという解説があります。
これはインデックス投資のバイブルである古典的名著「ウォール街のランダム・ウォーカー」(バートン・マルキール著)のなかでも紹介されています。そのなかでどう評価されているかを含めて見てみたいと思います。
割安株効果について、ウォール街のランダム・ウォーカーでは「バリュー株投資に対して大いに知的に共鳴している」として調査の結果をふまえて「低PERと並んで低PBRルールも有効」と認めています。
個人的にも、20年前にいろいろ投資法を試した中では、割安株(バリュー)投資の考え方がいちばんしっくりきていました。PERが相対的に低い企業を中心に、各種財務数値から理論株価を計算して、株価がそれより安ければ買い、高くなれば売るというオーソドックスな投資法でした。将来的に、もし個別株投資をするとしたらバリュー投資を選ぶと思います。
小型株効果について、ウォール街のランダム・ウォーカーでは、調査の結果、確かに指数よりも高いリターンが出ているが、小型株は大型株に比べるとリスクが高いのでリターンも高いのは当たり前の話だとつれない評価です。
より高いリスクを取る方法なら、投資総額自体を増やすとか、資産配分の株式比率を上げるなど、もっとシンプルで再現性が高い実現方法が他にあると思います。リスク水準が決め手であるならば、小型株でなければならない理由は弱いかも。
クオリティについては、上記日経記事では高ROE銘柄をすすめていますが、高ROE株は、東証と日経の肝いりで開発された「JPX日経400」が、高ROE銘柄が多いにもかかわらず鳴かず飛ばずで日経平均を上回れないことを考えると、あまり考える必要性を感じません。
「全面改訂第3版 ほったらかし投資術」の共著者である山崎元氏は、既にROEが高くなっている企業の株式よりも、これからROEが高くなる余地が残っている企業の株式の方が投資妙味があるという趣旨のことを著書等で書かれています。
モメンタムについては、ウォール街のランダム・ウォーカーでは調査の結果「株式市場にはある程度のモメンタムが認められる」としながらも、「突然モメンタムが失速して人気銘柄群の株価が反落し、それまでに稼いだリターンをそっくり吐き出す羽目に陥ることはよくある。これを考えると、トレンドに追随するアプローチには、ある程度のリスクを伴う」と懐疑的です。
トレンドに乗った順張り投資をしているかたにとっては「あるある」だと思います。私も過去にタイミング投資をしていた頃に、こつこつドカンとやられた経験がたくさんあります。
トレンドに乗る「買い」の方法だけでなく、トレンドから降りる「売り」の判断を的確に下せる方法とセットでないと、トレンドが変わり損失をくらうまでは順張り投資をやめられず 、結局、上記のこつこつドカンを繰り返すことになります。
以上のことから、もし、どうしても、どうしても、指数に勝つ運用を目指したいのであれば、個人的には「割安株効果」を狙うのはありだと考えます。
ただ、割安株投資をするにしても、「得意分野を決めて3~10銘柄の範囲で投資する」という実現手段がいまいちです。
なぜならば、くだんのノーベル賞を受賞した3ファクターモデルは、市場に存在するあらゆる株式を時価総額の大小と簿価時価比率の高低により2×3=6個のグループに分けて計算すると…というスケールの話であって、3~10銘柄の集中投資で指数を上回ることを実証したものではないからです。
銘柄数を絞り込めばポートフォリオのリスクが上がり、指数とパフォーマンスの差がつきやすくなるでしょう。しかし、結果的に指数を上回る「当たり」の確率と、指数を下回る「はずれ」の確率が両側に等しく広がるだけでは、指数に勝つことにはなりません。「当たり」側の確率を高めることができてはじめて、指数に勝つと言えるのだと思います。
また、実際にある投資家のパフォーマンスが良い方に出たとしても、3~10銘柄では各銘柄の個別要因が大きすぎて、それが再現性がある何かの効果なのか、はたまた単なる運なのか、要因の切り分けは困難です。
個人投資家が割安株効果で指数に勝つことを狙うのであれば、いわゆるバリューインデックスに連動するETFに投資するのが再現性が高いと思います。たとえば、米国株であれば「バンガード・S&P500バリューETF」(ティッカー:VOOV)に投資するなどです。
ここ10年の実績はこんな感じですが、理屈はしっかりしているはずなので、将来は指数に勝てるかもしれません。まあ、私はやらないと思いますが。
最後に、本ブログ記事は、株式投資で指数を上回る投資家が存在しないと主張しているわけではありません。指数は市場平均なのだから、指数を上回る人も下回る人も存在するのは当然です。ただ、再現性がある「必勝法」はなかなかないなあというところです。
※言わずもがなですが、投資判断は自己責任でお願いいたします。


- 関連記事
-
-
新NISAスタートを前に右往左往しているインデックス投資家は、あと1か月以上ある期間で基礎知識を復習してみませんか 2023/11/28
-
日経平均一時33年ぶりの水準に上昇。こんな時にやるべきこととは? 2023/11/24
-
SNSで大金を運用している他人を見ると凹むとかやる気がなくなるという感情がわからない 2023/11/22
-
山崎元氏による新NISAで腹落ちできる絶対的に正しい運用方法! 2023/11/18
-
新NISA「つみたて投資枠」の積立設定予約完了!「成長投資枠」の活用予定も 2023/11/13
-
日経「海外運用会社、個人投資家に無関心?かすむ資産運用立国」→かすんでいるのははたしてどっちかな? 2023/11/11
-