eMAXIS Slim“オルカン”、Tracers対抗の信託報酬引き下げは行わず?
水瀬ケンイチ

先日、日興アセットマネジメントが業界最低コストを更新する全世界株式インデックスファンド「Tracers MSCIオール・カントリー・インデックス(全世界株式)」を新規設定するという報道があり、競合他社の追随があるのかどうかが注目されていました(該当記事)。
本日、「eMAXIS Slim」シリーズの運用会社である三菱UFJ国際投信は「Tracers対抗の信託報酬引き下げは行わず」という報道がありました。
「業界最低水準のコストを将来にわたって目指し続ける」ことを公表している三菱UFJ国際投信が、業界最低コストに追随しないというのはどういうこと?と思いながら記事を読みました。
まず、ITmediaというIT系メディアがこのマニアックな話題をまっさきに深掘りして取り上げたことに驚きましたが、記事の署名を見ると、インデックス投資黎明期から見知ったお名前であり、「最近YouTubeでインデックス投資について学びました!」みたいなかたではないことがわかりました。
そのうえで、三菱UFJ国際投信によると「弊社ファンドでは、指数の標章使用料は信託報酬率に含めており、信託報酬水準が公正な比較対象とならないため、現時点では追随しない方針」「最低水準の運用コストを目指すというのは、トータルの運用コスト、その他費用も含めたコストを低減する努力をしていく、ということ」とのこと。
ほうほう。なるほど。信託報酬の内訳の定義が違うと。
しかし、これはなかなかに苦しい言い分だと私は思います。
たしかに、各社のインデックスファンドを比較する際に、信託報酬以外の「その他費用」を含む「実質コスト」は、必ずしも信託報酬水準どおりの序列にはなりません。過去には、信託報酬だけ安く見せかけて、じつは実質コストが非常に高いというインデックスファンドが存在しました。(PRUマーケットパフォーマーという名前に心当たりはありますでしょうか?)
なので、当ブログでもインデックスファンドの比較記事に関しては、信託報酬だけでなく、実質コスト、インデックスとの差異、1年リターン、3年リターン(年率)、5年リターン(年率)という複数項目の合計点で定期的(四半期ごと)にインデックスファンドの比較を行っています。そして、第1期運用報告書が出るまでは「参考」扱いです。
上記記事によると、「eMAXIS Slim」シリーズは信託報酬ではなく、実質コストで勝負するということのようです。
ところが、信託報酬は予め固定されているのに対して、実質コストは決算期ごとに変動します。また、運用報告書上の実質コストの計算は、投信協会の簡便法を使ったスナップショットであり、投資家からの資金流出入の影響で実際よりも大きく出たり小さく出たりします。
毎年変動する実質コストをもとに業界最低水準を目指すとすると、極端な話をすれば、毎年信託報酬を変更するはめになるおそれもあるような。
まあ、現在のトップレベルのインデックスファンド群においては、信託報酬や実質コストはごく小さな差しかない「頂上決戦」の様相を呈しています。このレベルになると、あまり短期間でコストの0.001%を競っても仕方がないという見方もできます。
逆に、一部の指標を実態以上によく見せようと運用会社がセコい小細工をすれば、信託報酬、実質コスト、インデックスとの差異、実績リターンのどこかに必ず異常値が出て、我々投信ブロガーたちの網に引っかかるでしょう。悪いことはできない世の中です。
「Tracers MSCIオール・カントリー・インデックス(全世界株式)」の第1期運用報告書に注目です。
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