セゾン投信「積立王子」解任劇について、日経新聞に生々しいルポ
水瀬ケンイチ

日本経済新聞田村編集委員が、セゾン投信「積立王子」解任劇について、あっと驚くようなルポを掲載しています。
上記記事によれば、セゾン投信中野会長CEOがこれまで相談などを持ち掛けてきた親しい数人の業界関係者などの話を総合すると経緯は以下のようなものだったとのこと。
- セゾン投信の6割の株式を持つクレディセゾン首脳に、中野氏が呼び出されたのは4月初旬。その場で6月末での退任を通告されたようだ。原因は販売戦略の違い
- クレディセゾンは過去も既存の金融機関との提携などで販路を拡大することを求めてきた
- クレディセゾン首脳は中野氏に対し、現在の純資産の8倍超の目標を示したうえで「全国を回って(投信保有者を)集めるあなたのやり方はもう通用しない」と指摘した
- 15万人の投信保有者についても「クレディセゾンの3500万口座に比べるまでもなく小さい」などと述べて解任を通告した
ちょっとまってほしい。これは生々しすぎるルポです。
クレディセゾンの林野会長はセゾン投信の中野会長CEOに対して、現在の純資産の8倍超の目標を示して「あなたのやり方はもう通用しない」と指摘したとありますが、これがもし本当だとすると、(期限が不明であるものの)親会社から子会社への要求としては無茶苦茶な数字だと言わざるえません。
どんな業界のどんな会社でもよいのですが、親会社の会長から「おまえノルマ8倍超な」と言われて、「ハイ、わかりました」と言える人がどれくらい存在するでしょうか。
組織などでの地位や人間関係などの優位性を利用して、他者に嫌がらせをしたり、苦痛を与えたりすることを、一般的には「パワーハラスメント」と呼びます。実現不可能なノルマを課すことは、パワハラの代表的な事例のひとつです。
「クレディセゾンの3500万口座に比べるまでもなく小さい」という話も、もし本当であったら無茶苦茶な話です。
なぜなら、クレディセゾンが所属するクレジットカード業界において、利益に貢献する「重要顧客」は、顧客の大半を占める一括払いしか使わない堅実なショッピング利用者ではなく、あまりお金がないが買い物欲が旺盛でリボ払いやキャッシングリボをするファイナンス(平たくいえば借金)利用者だからです。「借金利用者」の数と「積み立て投資利用者」の数を比較して云々というロジックが、絶望的に破綻しています。
いまから11年前、2012年5月に開催されたセゾン投信のイベント『セゾン投信5周年記念「555セミナー」“個人のチカラを活かすとき”』に私も参加していました。
そこで、クレディセゾンの取締役会総反対の中、林野社長(当時)が、「今の投信業界はおかしい。中野のやろうとしている個人の長期資産形成のための投信は正しいが、いつそれが世の中に認められるようになるのかは正直わからない。10年後かもしれない。でももしそれが正しいと言われる世の中になった時には、セゾンは10年前からやっていたと評価してもらえるに違いない」という言葉で出資が決まり、セゾン投信が誕生したというエピソードが中野社長(当時)から語られました。
2012/05/13 『セゾン投信5周年記念「555セミナー」“個人のチカラを活かすとき”』体験レポート - 梅屋敷商店街のランダム・ウォーカー(インデックス投資実践記)
個人の積み立て投資家がどんどん増えていて、長期資産形成のための「新しいNISA」が2024年から始まろうとしている今、まさに「セゾンは10年前からやっていたと評価してもらえる」時がようやく来たのではないですか、林野さん。
それがどうして、功労者のこんな解任劇に…。
もしかしたら、クレディセゾンには親会社としての事情があるのかもしれません。上場しているので外部の株主たちから、やれEPSを上げろ、ROEを上げろと常に迫られているのは想像にかたくありません。
だからといって、個人投資家からしたらそんなことは関係のない話です。投資の主たるリスクである「価格変動リスク」は投資家が100%負うものであり、金融機関は相場がいくら下がろうが投資家の損失を1円たりとも負担することはありません。そのかわり、相場が上がった時の利益は投資家がほぼすべて受け取れる。それが投資における「自己責任の原則」です。
自分がすべての責任を負う大切なお金を、どこの投資信託に「信じて託す」のか。それは投資家が自分で判断するしかありません。
私が中野氏のファンであることを差し引いても、セゾン投信は数少ない良心的な金融機関だと思っているので、自滅するようなことにはならないでほしいです。
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