【マスコミ調査】公的年金の2022年度運用実績が堅調! マスコミ報道は一定の進歩
水瀬ケンイチ

公的年金の積立準備金を運用するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は2023年7月7日に、2022年度運用状況報告を公開しました。
#GPIF は、2022年度運用状況を公表しました。 pic.twitter.com/b1aC4cXK0z
— GPIF (@gpiftweets) July 7, 2023
◆2022年度(2022年4月~2023年3月)
収益率: +1.50%(年率)
収益額: +2兆9536億円(年間)
運用資産額: 200兆1328億円
◆市場運用開始以降(2001年度~2022年度)
収益率: +3.59%(年率)
収益額: +108兆3824億円(累積)
簡単にいえば、2022年度は「堅調」。収益率は+1.50%(年率)、収益額は+2兆9536億円(年間)という結果でした。累積収益額は+108兆3824億円、収益率も+3.59%(年率)とこちらは「絶好調」で推移しているというのが全体像です。(なお、GPIFの運用目標は中期で年率賃金上昇率+1.7%)
収益がマイナス時には張り切って「年金叩き」を行うマスコミ各社、収益が堅調だった今期の対応はどうでしょうか。調べてみました。
Googleニュースで各メディアのネット報道内容をチェックします。チェック項目は過去の調査と同様、(1)収益額、(2)収益率、(3)運用開始からの累計実績、とします。
公的年金の運用実績(2022年度)に対するマスコミ各社のネット報道状況
(1)収益額 | (2)収益率 | (3)累計実績 | 備考 | |
日本経済新聞 | ○ | △ | ○ | 運用利回り表記はないが、運用総額表記あり(読者が自分で計算しないと評価不能) |
ロイター | ○ | ○ | ○ | |
ブルームバーグ | ○ | ○ | ○ | |
朝日新聞 | ○ | △ | ○ | 運用利回り表記はないが、運用総額表記あり(読者が自分で計算しないと評価不能) |
毎日新聞 | ○ | ○ | ○ | |
読売新聞 | - | - | - | 報道なし |
産経新聞 | ○ | ○ | × | |
共同通信 | ○ | ○ | ○ | |
時事通信 | ○ | △ | ○ | 運用利回り表記はないが、運用総額表記あり(読者が自分で計算しないと評価不能) |
NHK | ○ | ○ | ○ | |
日本テレビ | ○ | ○ | × | |
TBS | ○ | △ | × | 運用利回り表記はないが、運用総額表記あり(読者が自分で計算しないと評価不能) |
フジテレビ | - | - | - | 報道なし |
テレビ朝日 | ○ | △ | × | 運用利回り表記はないが、運用総額表記あり(読者が自分で計算しないと評価不能) |
テレビ東京 | - | - | - | 報道なし |
まず、テレビメディアが前回よりも改善しています。
前回は日本テレビ、TBS、フジテレビ、テレビ東京にネット報道自体ありませんでしたが、今回はNHK、日本テレビ、TBS、テレビ朝日が報道しました。
NHKは(1)収益額、(2)収益率、(3)累計実績がフル項目でわかりやすい報道内容になっていました。日本テレビは(1)収益額、(2)収益率を押さえた十分な内容でした。TBSとテレビ朝日は(1)収益額だけでしたが、運用総額も併記されており、読者が自分で計算すれば(2)収益率は導き出せる内容でした。
できれば、運用実績に関係なく、いつもこの調子で報道してほしいものです。ネット報道自体がないフジとテレ東は論外です。
次に、新聞メディアは改善と劣化が入り乱れた玉石混交状態となっています。
まず改善したのは、前回報道なしだった産経新聞が(1)収益額、(2)収益率を押さえた十分な内容になったのと、前回(1)収益額のみの不適切報道だった毎日新聞が、今回は(1)収益額、(2)収益率、(3)累計実績がフル項目でわかりやすい報道内容になっていました。朝日新聞は前回同様、(1)収益額、(3)累計実績を報道しました。
劣化したのは、前回フル項目で報道した読売新聞がなぜか報道なしに落ちていました。
次に、通信社はほぼ現状維持でした。
共同通信が(1)収益額、(2)収益率、(3)累計実績がフル項目でわかりやすい報道内容、時事通信は(1)収益額、(2)収益率を押さえた十分な内容でした。おもしろいことに、共同通信と時事通信の報道内容は前回と今回で入れ替わっていますが、いずれにしても、たとえ短い文章でも情報の要素をしっかりと押さえて報道すれば、読者は運用状況を理解できます。
通信社は地方新聞などに記事を配信しているので、お粗末報道をしてしまうとそれが拡大再生産されてしまいます。今後も長文でなくてもかまわないので、情報の要素を押さえた報道と配信をしてほしいと思います。
全メディアを通して、(1)収益額、(2)収益率、(3)累計実績のフル項目がすべて表記されていたのが、ロイター、ブルームバーグ、毎日新聞、共同通信でした。いくら損した(儲かった)のか? それは全体に対してどの程度の影響なのか? 過去からの累計分を全部ひっくるめるとどうなのか? という年金運用実績の全体像が評価できる、読者にとってわかりやすい報道になっていました。
逆に前回フル項目表記だった、日本経済新聞と読売新聞の報道内容が劣化してしまったのが残念でした。
ただ、(1)収益額だけを表記して、収益率や運用総額を伏せたままマイナス(あるいはプラス)金額の大きさだけで騒ぎ立てる不適切メディアがひとつもなくなったことは、一定の進歩といえると思います。ぜひ、運用実績の好不調にかかわらず、このスタンスでいってほしいと思います。
公的年金の年金積立金の運用実績というひとつの切り口ではありますが、日頃から国民に正しい情報を届けようとしているのか、ネガティブ報道だけを大々的にやろうとしているのか、メディアの報道スタンスを垣間見ることができます。
公的年金制度に関しては、人口増加を前提とした制度設計であることや、未納問題、過去には消えた年金問題、マクロ経済スライドの未実施等、多くの課題を抱えていることは事実です。
しかし一方で、年金積立金の運用については真面目に行われており、情報公開も進んでいるというのが、運用をウォッチしている私の認識です。これらの公開情報は、世界最大級の機関投資家の情報として、個人投資家の資産運用にも大いに参考になるものです。
年金は国民の最大級の関心事のひとつです。マスコミ各社は煽る方向ばかりに張り切るのではなく、良いことも悪いことも含め、きちんと「事実」を伝えてほしいと思います。
P.S
本文にも書いたとおり、ネットで公開されている範囲での情報収集なので、「ニュースサイトには掲載していないが、新聞本紙では掲載している」「○時○分のTVニュースで触れた」等の事情はあるかもしれません。だからといってメディア名を冠したネットニュースには非掲載でよいという理由にはなりません。
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