「今のところ無風の投信コスト競争」という珍妙なレポートが示す日本の悪しき商習慣の名残り?

水瀬ケンイチ

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ニッセイ基礎研究所が「今のところ無風の投信コスト競争」という珍妙なレポートを発表しています。


詳しくは上記記事をご覧いただきたいのですが、要旨をむりやりまとめると、2023年8月の投信の動向は今年最大の資金流入で、外国株式ファンドはタイプによらず流入増加で、インデックス型ではコスト競争が勃発していて、「無風」とのこと。

無風・・・?

小見出しを活用しながらレポートの趣旨をできるだけ客観的にまとめようとしましたが、理由と結論がかみあっておらず、日本語として文章がおかしいのでまとめに苦慮しました。

今年最大の資金流入があった事実や、外国株式ファンドはタイプによらず流入増加という事実や、さらにはインデックスファンドで熾烈なコスト競争が勃発して運用コストがどんどん下がっている事実は、投信市場における今年最大のトピックスだと私は考えますが、これが無風とのことです。

それでは、ニッセイ基礎研にとって一体なにが「風」なのでしょうか。

「8月もこれまで通り三菱UFJ国際投信、SBIアセットマネジメント、楽天投信投資顧問の商品が売れている。今のところ販売動向には大きな変化がみられず、ほぼ無風状態である」とあるところを見ると、どうやらニッセイ基礎研は、投信販売ランキングに変化があることを「風」とみなしていることが推察されます。

だとしたら、運用コストが下がり個人投資家のリターンが増えるというメリットや、自社の利益を投資家に渡してでもトップシェアを取りたいという運用会社の必死の企業努力はなんの風にもなっていないということでしょうか。

個人投資家にとって、低コストなインデックスファンドが正当な評価を受けて純資産残高が増えてさらに低コストになっていくことはメリットであり、かつ金融機関との数少ない Win-Win の関係となります。購入銘柄が毎月ころころ入れ替わる状況は必ずしも良いことではありません。

昔ながらのメディアにおいて投信市場の評価は昔から少々おかしいところがあって、たとえば毎月の投信市場で新規設定本数が多いと「良い」、新規設定本数が少ないと「悪い」とする評価がいまだに見受けられます。

新規設定投信が多いと良いという評価基準は、かつて日本の投信市場の悪しき商習慣だった「回転売買」(顧客の投信を次々と新規投信へ乗り換えさせて販売手数料を何度も稼ぐ手法)が幅を利かせていた時代の名残りだと思われます。金融機関の利益ベースの考え方です。

回転売買は投資家の資産形成を阻害するということで、金融庁から「いい加減にしろ」とばかりに金融機関に強い指導が入り、今ではすっかり鳴りを潜めています。ただ、市場周辺の人間の思考回路はなかなか変わらないのでしょう。

投資家の利益をベースに考えれば、資金流入や純資産残高が増えることが「良い」ことで、資金流出や純資産残高が減ることが「悪い」ことです。ランキングが変わらなくても今年最大の資金流入があり、純資産残高が増えて、運用コストが下がったというのは十分に価値があるニュースです。それを無風とは言わないでしょう。

金融機関の側に立ったレポートと、投資家の側に立ったレポートで、こうも評価が変わるものかとあらためて思いました。投資家としては、投資家の利益に役立つレポートを参考にしたいですね。



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Posted by水瀬ケンイチ