新しいNISAをキッカケに新しい投資戦略をやってみようという勧めが危険な理由
水瀬ケンイチ

日本経済新聞に「新NISAの改善点を最大限に生かす 5つの新投資戦略」という記事が掲載されていますが、これは個人投資家にとって危険な情報が含まれているので注意喚起させていただきます。
詳しくは上記記事をご覧いただきたいのですが、要旨をむりやりまとめると、新NISAの改善点を最大限に生かす5つの新投資戦略とは以下のとおりとあります。
①資金に余裕のある人は早めに非課税枠を埋める
②ためらっている人も少額でコツコツ投資を始める
③インデックス投資派も個別株投資に挑戦
④まったり投資派は高配当株に長く投資
⑤今よりも柔軟な投資プランを考えてみる
一見、良さげな戦略に見えますが、そうではありません。①②は良いとして、③④⑤は私のようなインデックス投資家に限らず、いかなる投資家においてもダメな戦略だといえます。なぜか?
それは、制度に合わせて投資戦略を変えようとすすめているからです。制度に合わせて投資戦略を変えるのではなく、本来は自分の投資戦略が先にあり、制度で利用できるものがあれば利用できる範囲で利用する、というのが筋です。
新しいNISAの非課税制度は、非課期間が恒久化され、非課税金額も大幅に拡大されました。しかしそれは、利益があってはじめて非課税という意味が出てくるものであり、損失状態ではなんの意味もないばかりか、通常であればできる損益通算すらできないという「泣きっ面に蜂」という面がある制度であることは、従前のNISA制度から変わりありません。
仮に、③のインデックス投資家が個別株投資をすることが合理的であるならば、新しいNISA制度があろうとなかろうと、既に個別株投資をしているべきです。今までインデックス投資をやっていたのに、新しいNISA制度が始まることをキッカケに個別株投資でもやってみよう、などという安易な考えはカモにされるキッカケになるだけです。新しいNISA口座で非課税枠が大きくなっても、慣れてない投資法のリスクは一切変わりませんので。
④のまったり投資家というのがどういう投資家なのかいまいち判然としませんが、高配当株への個別株投資をするのであれば、既に個別株投資をして腕を磨いているはずです。記事にあるようにNISA口座のロールオーバーがなくることをキッカケに、高配当株の個別株投資でもやってみよう、などという安易な考えはカモにされるキッカケになるだけです。株主優待目的の個別株投資も同じです。新しいNISA口座で非課税枠が大きくなっても、慣れてない投資法のリスクは一切変わりませんので。
⑤の「柔軟」という言葉は、長期投資において最も厄介な言葉のひとつです。柔軟といえば聞こえは良いですが、要するに自分の投資法が定まっていない状態にある、もしくは、相場状況によって投資対象を売買して変えていく「アクティブ運用」がうまくできることを前提にしているからこそ、出てくる言葉です。
自分の投資法がまだ定まっていない投資家がいう「柔軟」は、単なる経験不足であり、一刻も早く自分の投資法を定めることが先決です。新しいNISA制度がどうこうという話は二の次です。新しいNISA口座で非課税枠が大きくなっても、慣れてない投資法のリスクは一切変わりませんので。
また、本当に柔軟なアクティブ投資家は、相場状況によって投資対象を売買して変えていくことこそがアクティブ運用の肝であり、柔軟なのは当たり前のことです。安定的に利益を出せるアクティブ運用法があるとしたら、それはトップシークレットで他人には秘密にしたいほど貴重なものです。新しいNISA制度が始まることをキッカケに、「どれ他の方法でも試してみよう」とか「非課税枠が復活するなら損切りしよう」などという甘っちょろい考えではないはずです。
では、なぜ新しいNISAの開始をキッカケに新しい投資戦略をやってみようなどという勧めがメディアから出てくるのでしょうか。
金融機関にとっては、新しいNISA制度対応でシステム投資に費用がかかっています。もし投資家が超・低コストなノーロードインデックスファンドを買ってじっと持っているだけでは、その費用を回収することすらままなりません。費用を回収し、利益を出すためには、投資家にできるだけ様々な投資商品を、できるだけ頻繁に売買してもらうのがよいと考えるでしょう。そのたびに各種手数料で儲けられるからです。
今後、金融機関は新しいNISA制度をトリガーに、新しい投資商品をどんどん勧めてくることが容易に想像できます。金融機関をスポンサーとしているメディアも、それをどんどん後押しするような情報を発信していくことでしょう(上記記事のように)。彼らも慈善事業ではなく営利企業なので仕方のないことです。情報の受け手である個人投資家側がしっかりするしかありません。
繰り返します。新しいNISA制度は、利益があってはじめて非課税という意味が出てくるものであり、損失状態ではなんの意味もないばかりか、通常であればできる損益通算すらできないという「泣きっ面に蜂」という面がある制度であることは変わりありません。
だからこそ、新しく始まるNISA制度に合わせて投資戦略を変えるのではなく、利益を出せる自分の投資戦略が先にあり、制度で利用できるものがあれば利用できる範囲で利用する、というのが筋だと思うのです。
百歩譲って投資戦略を変えるにしても、それは新しいNISA制度があってもなくても、自分はそうした方が良いという確信がある場合に限った方がいい。
どうか、新しいNISAをきっかけに新しい投資戦略をやってみようという勧めには、惑わされませんように。
こんな記事も読まれています。「新NISAで注目すべきもの」は、金融機関やメディアが「新NISAで注目してほしいもの」に過ぎないかもしれません。
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